二度目の二人旅(真弘×珠紀)
今日は出発当日。
彼女を家まで迎えに行くと、大きい荷物を抱えて玄関までやってくる。
「おはようございます」と俺に挨拶をした後で、見送りに来ていたババ様・美鶴・守護者の皆に二人で手を振って、季封村をあとにする。
目指すは、綿津見村へ。
ことの始まりは彼女のある言葉からだった。
「真弘先輩、またどこかに旅したいなって思ったことありません?」
そう、何気なく尋ねられる質問。
「ん?そういや、お前とアメリカに行ってから旅なんてしてないもんな…。
まぁ、またどっかに行くのもいいかもな」
珠紀の質問に隠された意図など何も考えずに、思うまま笑顔で返事をする。
その途端、「本当ですかっ!?」と聞き返され、少し戸惑う。
「あ?あぁ…、そう思っただけだが…。何かあるのかよ?」
「い、いえ、何もありませんけれど…」
そう、言葉を濁らした後で「それにしても、暑いですねぇ」と話題を変えてくる彼女。
質問をしてきたのは彼女の方だというのに。
いつもこうだ。
「何かあるのか?」と問えば、「何もないですよ」と言う。
こういうときは必ずといっていいほど、何かがあるのだともう理解していた。
俺に気を遣ってくれているのかはしらないが、そう言われた方は気になって仕方が無い。
でも、彼女が言いたくないのなら無理に聞き出すことはしたくないなと思う俺様もいるわけで。
全く…、どうしろっていうんだ…。
先程から、セミの鳴き声が響いている。
その鳴き声に混ざって、ちりんちりんと風鈴の音がする。
珠紀の家の居間で、涼んでいた珠紀と真弘。
ふと、どうしたことかと思っていた真弘の脳裡にある人物が浮かぶ。
「珠紀、今日美鶴はここに来ているのか?」
思い付いた人物の名を彼女に告げる。
「美鶴ちゃんですか?今は確か台所だと思いますけど…」
「そうか…。悪い、珠紀。美鶴に用事があったのを思い出した。
ちょっと行ってくるからお前はここで待っててくれねぇか?」
「いいですよ。行ってらっしゃい」
何も知らない珠紀が笑顔で真弘を見送る。
「おう」
そして、立ち上がって居間から出て、美鶴がいるという台所へと向かう。
事が上手くいったことに思わずニヤリと笑う。
台所に着くと、せっせと美鶴が料理を作っていた。
足音に気付いた彼女が振り返る。
「あら、鴉取さんもいらっしゃっていたのですか?お出迎えもせず、すみません」
驚いた顔をした後で、ぺこりと頭を下げる。
「あぁ、いや、気にしなくていい。
それより、ちょっと美鶴に聞きたいことがあるんだが…」
居間から台所までは距離があるとはいえ、万が一にも美鶴との会話が居間まで響かないように用心して、声を抑えて話をする。
その真弘の様子に何かを感じた美鶴は火にかけていたお鍋を止めて話を聞く体勢を整える。
「何かありましたか?」
濡れていた手を布巾で拭きながら、優しく尋ねる。
「いや、その、珠紀の様子が何かおかしいんだが、何か知らないかと思ってよ」
「え?珠紀様ですか?
あら…、まだあのことをお話になられていらっしゃらないのですね…」
やはり美鶴なら何かを知っているはずだと思って正解だったらしい。
だが、珠紀が言おうとして言わない「あのこと」とは一体何なのか。
「あのことって何のことだ?」
「はい…、私の口から申し上げてしまってはいけないのかもしれませんが、そうですね…」
困った様子でしばらく考えた後、「分かりました。お話しましょう」と意を決して告げてくれた言葉。
そして「あのこと」を教えてもらい、彼女に礼を述べてから居間へと戻る。
困った彼女を問い質すために。
スタスタと足音が聞こえてきてから、スーっと襖が開く。
「あ、お帰りなさい、真弘先輩」
見送ったのと同じように笑顔で出迎える。
「あぁ、悪かったな」
いつもと変わらない様子で、テーブルを挟んで真向かいにどさっと座る。
そう、いつもと変わらないように思えるのに何かが違うように感じる。
「美鶴ちゃんへの用事は何だったんですか?」
台所で何かあったのかと不思議に思いながら目の前の彼に尋ねる。
「いや、たいしたことない…。
それより、お前、この俺様に隠してることあるだろ?」
唐突に尋ねられる。
「か、隠してることですか?いえ、特に何もないですけど…」
明らかに慌てた様子で返ってくる返事。
(ったく……)
ここまで聞いてもだめか、と半ば呆れながらも、ここで引き下がるつもりは無い。
もう彼女の隠し事が何なのか知ってしまっているのだから。
「それは本当なんだな?」
「ほ…、本当ですよ?」
「ふーん…、じゃあ、いいや」
「え?い、いいんですか?」
途中で身を引いたことに驚く珠紀。
いつもの俺様だったら、そんなことするはずないから戸惑うのも当然だろう。
「あぁ、別に。俺の勘違いだったんだろ?悪かったな」
そう言った後で、にこりと微笑む。
目の前の彼女が段々と悩んでいるのが分かる。
(あと一歩か…)
そう思ったとき、はぁと大きなため息を一つ彼女がつく。
そして、何かを諦めたようにぽつりと話し出す。
そんな様子を見て、ちょっと悪いことしたかな、と思わないでもないが、俺様に隠し事をする珠紀も悪い。
お互い様だと思うことにした。
「珠紀、荷物重いだろ?俺様が持ってやるから貸せ」
珠紀の家から少し離れた場所でそう言って、手を差し出す。
「だ、大丈夫ですよ!自分の荷物ですから、自分で持ちます!」
「って、お前もうふらふらじゃねぇかよ……」
玄関で会ったときにも思ったが、どうしてこんなに荷物が多いんだ?
まぁ、またいらないものまで詰め込まれているのかもしれないな…、と過去のことを思い出して思わず笑う。
「どうかしましたか?」
そう不思議がって尋ねてくる珠紀から何も言わずに荷物を奪う。
綿津見村とやらへの旅が始まる。
二度目の二人旅。
はたして、今回は何が二人を待っているのだろうか…。
完 初出:2007.08.09
あとがき
翡翠発売日当日にして、カウントダウン企画最終日。
やはり最後は真珠で締めてみました(笑)
玉依姫として綿津見村に派遣されるとしても、守護者に同行をお願いするのも勇気が必要ですよね。
はっきり誘えばいいはずなのに、そこまで遠回りする二人が書きたかったのです。
それでは最後までお付き合いしてくださり、本当にありがとうございました。