彼と彼女の関係(晶+珠洲)
彼女と出会ったのは自分が何歳の頃のことだっただろうか。
親に連れられて向かった先は高千穂家。
そこにいたのは優しく微笑む女性とその人の後ろに隠れる少女だった。
その出会いは偶然ではなく必然だった。
当代の玉依姫である高千穂彩子の一人娘、珠洲。
そして、代々玉依姫の守り人を務めるという役目を持つ重森家に生まれた晶。
遅かれ早かれいつかは出会わなければならない運命にあった二人。
こうして、この出会いから幼なじみという関係が築かれていくことになる。
弟である陸を連れて一緒に遊ぼうと家までやってくる珠洲。
頻繁にやってくる彼女を正直鬱陶しく思う日もあり、その誘いを断ったこともある。
だが、何かを感じ取った親から「仲良くするように」とやんわりと叱られた。
いつの日か自分が守るべき対象になるかもしれない彼女。
家の事情というものがあるのだと幼心に理解した。
そして何かを割り切って、遊んでやることにした。
そう、最初は「親のために」という気持ちが強かったのかもしれない。
珠洲と陸と三人で過ごす時間が増えていく。
春夏秋冬と巡っていく季節。
その全てに彼女たちとの思い出が積み重なっていく。
くだらないことで一緒に笑って、遅くまで時間を忘れて遊ぶ。
三人にしか分からない会話。
三人の中だけで流行る遊び、趣味。
そして、大喧嘩をして口も聞かなくなる二人。
そのときは残った一人が二人の間を持って、また三人へと戻る。
そうして繰り返していく日々の中で成長していく三人。
いつからなのかは自分でも分からない。
ただ陸と珠洲と三人で過ごす時間が当たり前のようになっていった。
まぁ、たまに珠洲のことを鬱陶しく思うときがないとは言い切れないが。
でも、「親のために」なんていう考えが消えてなくなっていたのは確かだろう。
そう気付いたときには既に幼なじみという関係が築かれていた彼と彼女。
そして、いつも優しく暖かく自分を家に迎え入れてくれる彼女の母親。
そんな日々がこれからもずっと流れていくのものだと思っていた…。
彩子さんが龍神の暴走によって、突如高千穂家からいなくなった。
事の次第を聞かされたときにはすでに全てが終わっていた。
急いで二人の様子を見に、彼女たちの家へと駆けた。
泣くことすらせず、涙を忘れてしまったように思えた珠洲と陸。
掛ける言葉が見付からなかった。
何を言えばいいのか分からない。
自分に何が出来るのか分からない。
何かをしなければいけないはずなのに、何も出来ないもどかしさ。
自分が今どういう表情をしているのかさえ分からなくなったまま、ただ玄関に立っていた。
そんなとき、目の前の少女から一筋涙が零れる。
「ごめんね?」
ぽそりと掠れた声でそう言って、不器用に笑う。
どうして彼女が謝るのか分からなかった。
でも居ても立っても居られなくて、靴を脱ぎ捨てて駆け上がり珠洲と陸を抱きしめた。
震える二人の肩を強く、強く抱いた。
二人の涙が止まるまでずっと、そのまま…。
このときだったのかもしれない。
心優しい少女を自分が守ってあげないといけないのだと思ったのは。
玉依姫になるかもしれないから、ではなくて、一人の友人として…。
完 初出:2007.08.07
あとがき
晶を書くのが本当に難しくて、ツンデレの欠片もありませんね。
ただ表には出さないけれども、晶の心の変化のようなものを書いてみたくなりまして…。
家の事情での付き合いから始まり、次第に打ち解けて友人に。
そして、また真緒姉との戦いを通して珠洲との新たな関係が築かれていくんだと思います。
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。