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月夜に舞い降りる(真緒+御子柴)

半月が雲ひとつ無い晴天の夜空に浮かんでいた。
その月が水面に映り、ゆらゆらと揺れて輪郭が崩れていく。
その海辺の近くの河原でカサリと音がする。



「うふふ…、やっぱり夜の方が動きやすいわね…」

そう妖しく笑いながら、暗闇から誰かが出てくる。
月の淡い光に照らされて徐々にその人物の姿が明らかになる。
妖しい雰囲気に包まれた女。
彼女が歩みを進めるたびに、じゃらりと無機質な音が立つ。
まるで拘束するかのように首から指先にまで繋がれた鎖。
身体を動かす度に、ひやりとした感触とともに、微かに重みを感じる。
その存在を何度煩わしいと思い、引きちぎろうとしたことか…。
妖となった自分。
ふと、そうなる前の自分の記憶を思い出すことがある。
あれは誰だったか…。
自分に懐いてきた年下の女の子。
しっかり者の自分とは違って、いつまでも子供のようで一人で放っておくには危うい存在。
その女の子が笑顔で駆け寄ってくる映像が何度も頭の中で繰り返された。
徐々にその笑顔が掠れて見えなくなっていく。
その記憶を手放したくはないと必死に忘れまいとしていたはずなのに、暗闇の中で数え切れない時を歩いているとどうでもいいとさえ思えてくる。
(何もかもがどうでもいい……、ただ私が欲しいのは…)


ぼんやりと水面を見つめながら佇んでいた彼女の後ろの空間がふいに歪む。
そして、ひび割れた空間の奥から声がする。

「真緒様、またこちらにいらしたのですか?」

その開かれた黒い闇の中から人影が出てくる。
長い黒髪を一つに括り、片手に赤い刀を携えた男。
静かに振り返り、その男の存在を目視する真緒。
「御子柴か……、何かあったの?」
くすりと笑いながら、その男に近付く。
「羅門、天蠱、弥勒達が待ちかねておりますぞ。
奴らは人間の血に飢えているようで…、早くその手を血に染めたいようです」
淡々とそう話をして、ニヤリと笑う。
まるで自分もそうだと言わんばかりの笑みだった。
「そう……、うふふっ、全く仕方の無い子たちね…。
焦らなくても私たちの獲物はすぐそこにいるのに」
じゃらりと鎖が揺れる音を立たせながら、片手を口元に添えくすりと笑う。
色の違う彼女の両目が妖しく、そして、鈍く光る。
「でしたら、どうして今夜にでもその獲物を狩りに向かわないのですか?」
「そうね…、どうしてかしら?
ただ私の気分が乗らないだけよ?それにすぐに敵を倒してしまうのもつまらないじゃない?」
「フフ、そうですね…。それでは、戻りましょうか、真緒様」
「えぇ…」
開かれたままの黒い空間へと吸い込まれるようにゆっくりと入っていく。
前を歩く男が闇の中へと消える。
その姿を見送った後、ぴたりとその場に立ち止まり、天を仰いで月を見る。

「出会うのはこの月が満ちたときよ……、珠洲」

そう、ぼそりと呟いて口角を上げる。
ぞわりと見た者を震え立たせるようなその妖艶な微笑み。
彼女が身にまとう雰囲気は妖怪そのものだった…。
掠れていた女の子の映像がぷつりと途絶えて闇に染まる。

壊したいのは、世界か、それとも……自分か。


完 初出:2007.08.01


あとがき

意外にも(?)真緒姉様から始めてしまったカウントダウンSS…(あわわ)
某雑誌で見たあのスチルにかなり影響を受けて書き上げてしまいました(笑)
真緒姉様側はどうにもまだ分からないことだらけなので手探りではありましたが…。
ひんやりとした暗い世界がこの文章から表れていたらいいなと思います。

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。