私のために音を奏でて(遼×珠紀)

今日は歌の練習日。
どうしてこんなことになったのかは分からないが、守護者の皆は今歌の練習に励んでいる。
そう、思い返せばおばあちゃんの一言から事は始まっていたのだろう。

「何か新しい催し物をしてみたいわね…」



秋祭りに向けて季封村の飾り付けが始まっていたある日。
私の家の居間にはおばあちゃんによって守護者が集められていた。
そこでの一言。
初めての参加だったが、去年の秋祭りを経験しているから秋祭りがどういうものかは理解している。
たくさんの屋台とちょうちん。そして、浴衣姿で歩くたくさんの人々。
思い出すだけでも楽しくてわくわくした気持ちになる。
その秋祭りにおいて、何か新しい試みをしてみたいのだと彼女は言った。
そして、偶然帰郷していた小さな先輩がやる気に満ちた瞳で言った。

「祭りと言ったらあれだろっ?のど自慢!!!」

こうして、秋祭りに新たな催し物が加わったのである。


村人の一般参加も可能なのだが、仮に参加者が独りもいない場合企画倒れになってしまうということで、人数合わせのためにも守護者の皆は有無を言わさず強制参加となった。
最初はやる気に満ちた者は一人だけだったものの、次第に皆参加する気にはなってくれたみたいだ。
その先輩の挑発に乗った者。
強制なのだから仕方がないと諦めた者。
真意はよく分からないが一応参加してくれそうな者。
意外とやる気満々のような和服の御方。
そして、問題児が一名。
―――――、狗谷遼



彼が団体行動が好きではないことくらい、もう十分過ぎるほど理解はしている。
(もう…、どこに行っちゃったのかな?)
秋祭りまでそんなに日はないのに、「やってられるか」という一言を残して、どこかに消えてしまった彼。
彼を探し出してなんとか説得しようと村中を走り回っていた。
他の守護者の皆も手伝おうかと言ってくれたけど、歌の練習の邪魔はしたくないし、一人で探すことにした。
「守護者の参加は絶対ですからね?珠紀」
そう言ったときのおばあちゃんの表情に一瞬ぞくっとした寒気を感じた。
一刻も早く遼を見つけないと、何か恐ろしいことが自分を待っているような気がした。

「おい、さっきから何をしてるんだ?」

ふと、森の奥から聞いた事のある声がする。
全力で駆けていた足を止め、その声のした方向へと振り向く。
「!? 遼っ!!や…、やっと…、見付けた…」
体力不足なのだろう…、少し息が切れる。
肩を上下させてなんとか息を整える。
そんな私の様子をただじーっと見つめるだけの彼。

「まったく!どれだけ探したと思ってるのよ!!
歌の練習、サボってるんだってね」
「歌なんかやってられるか。それに、大勢で何かするのは好きじゃない」
やはり思っていた通りのことを話してくる彼。
「それは分かってるけど…、でも、今回は守護者は強制参加になっちゃってるんだし…。
それに、遼は私の守護者になってくれたんだったよね?」
先程とは違って、小さな、そして優しい口調で話しかける。
この目の前にいる強引な彼を説得することなど出来るのか不安で仕方ないのだが、今はどうにかして説得しなければいけない。
おばあちゃんのあの表情がまた頭の中に浮かび、心なしか鳥肌が立つ。
「ああ、お前の守護者にはなった。だが、歌なんて歌いたくない。
他の奴らは結局参加する気みたいだが、何が面白いのか全く分からない」
「で、でもね。もしかしたら、面白いかもしれないじゃない?」
なんとか必死に彼の説得を試みる。

「あ?お前は俺に歌わせたいのか?」

珠紀の必死さが彼に伝わったのだろうか、疑問を浮かべた表情で聞いてくる。
(説得のチャンスは今しかないっ!!!)
「うん!歌って欲しいの!
お願い!一回だけでいいから、私のために歌って!!」
なりふり構わず、最初で最後かもしれないその訪れた説得のチャンスを逃さないように必死に彼に懇願する。

その珠紀の様子を見て、遼の口元がニヤリと緩む。
「それは、あれだな?
俺に歌って欲しいと、お前が言うんだな?」
「え?うん、そうだけど…」
自分が今している行動は彼への頼みごと以外の何物でもない。
どうしてそんなことを聞き返してくるのだろうかときょとんと不思議になる珠紀。


「交換条件があるのなら、その頼み承諾してやっても構わないが?」


意地が悪い表情でニヤリと笑う。
そんな彼の様子を見て嫌な予感はした。
でも、ここでもまた浮かぶおばあちゃんの…あの…。
「…、はぁ、分かった。ただし、遼が実際に秋祭りで歌ってからね!」
断ったらもう二度とのど自慢に参加してくれそうにないから、しぶしぶ承諾する珠紀。
とにかく、一刻も早く遼に歌の練習をさせようと森の中から出てどこかに移動しようと歩き出す。
「行くよ!」と後ろに声を掛けようとしたとき、腕が強引に掴まれて彼の方へと引き寄せられる。
「前払いだ…」
そう言う低い声が聞こえたかと思うと、いきなり唇がふさがれる。


その後、彼が約束通り秋祭りで歌ったのかはまた別のお話…


完 初出:2007.05.26?27?


あとがき

初の遼珠書きで、あわあわしています!
守護者誕生祭様の絵茶に参加させて頂いた際に「歌う守護者」というお題になりまして、余ってしまった遼を貰って書きました(笑)

今までにない程短時間で書き上げることが出来て、やれば出来るということをしみじみと感じました。
ただ、初の遼珠ですので拙いところもあると思いますが、そこはご了承してくだされば幸いです。
それでは、楽しい絵チャに参加させて頂きまして本当にありがとうございました!

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。