健康診断(真弘×珠紀)

「………はぁ」

ため息をつきながら、とぼとぼと重い足取りで自分の教室へと続く廊下を歩いている少女が一人。
彼女の名は、春日珠紀。
玉依姫である。



(後悔しても、もう遅いな…)

思い返せば、心当たりがないわけではない。

昼休み、屋上で守護者の皆と過ごすランチタイム。
美鶴ちゃんお手製のお弁当があまりに美味しくていつも完食する上に、隣に座る慎司くんお手製のお弁当がこれまた美味しそうで…。
ついついおかずを貰ってしまう。

「先輩、よかったらこれどうぞ?」

そんな風に優しい笑顔で勧められて断れるはずがない。
実際に彼のお弁当は見た目も味も最高なのだ。
そして、そういったやり取りをしているとたまに無言で差し出されるいなりずし。

祐一先輩だ。
これまたついつい受け取ってしまうのだ。

「幸せなんとかってことなのかな…」
あのロゴスとの戦いを終えて、季封村に平和が戻り、それ以来平穏な毎日が続いている。
その頃と比べると運動量が減ったのかもしれない。

――――、そう、少し体重が増えていたのである。



「…………はぁ」
保健室で行なわれている健康診断。
終えた人から順に教室に戻って自習することになっている。
珠紀はその帰り道、廊下をとぼとぼと歩いていた。

「…………はぁ」
また深いため息を一つ。
年に数回行なわれる健康診断。
そのうちの身体測定で一喜一憂する生徒たち。
(こんなに憂鬱な気持ちになるなんて…。)


「お前、何やってんだ?」


ふと、後ろから声を掛けられる。
振り返らなくてもこの声の主が誰なのかは分かる。
ただ…、こんな沈んだ気持ちのままの自分を見られたくなくて。
小さく息をはいて、心を落ち着かせてから珠紀はその声の主の方へと振り返った。

「先輩こそどうしたんですか?」

振り返ると、そこにいたのはやはり真弘だった。
真弘は守護者の中の一人で、共に戦い、あの戦いの中で自分にとって大切な人となった存在。
彼は少し黙って珠紀の表情に視線を向けてから口を開く。

「いや、たまたま、だな。
通りかかったらお前がいるのが見えたから、声をかけてみただけだ。
それより、な、何かあったのか?」

心配そうな声で、言葉を切りながらつぶやく。

珠紀は、はっとした。
まさか目の前のこの人はもう既に何かに気付いているのではないだろうか。
心配させるわけにはいかない。
それに、そもそも自分がどうして落ち込んでいるのか、その理由をこの人には特に知られたくはない。
動揺し始め、ドクドクと速く鳴り出す心臓の音を聞かれないように、平静を装う。

「な、何がですか?何もありませんよ?」
いつもと変わらない笑顔を作り、そう答える。

すると、真弘は自分の頭に手をやり、ため息を一つ。
「無理すんなよ、お前の嘘なんか俺様にはばればれなんだよ。
っと…、そう言えば今日って健康診断だよな?」

健康診断。
今日一日をかけて、全学年で行なわれているのだから真弘が知らないはずがない。
ふと何気無しに言ったその言葉に、珠紀がびくっと反応する。
下を向いているため表情まではよく分からないが、その変化に真弘が気付く。
「ん?健康診断、が関係するのか?
…………あっ、お前まさか!」

(!?? 気付かれた!?)
今にもこの場から走って逃げ去りたい衝動に駆られながら、恐る恐る顔を上げる。
まさかこの後彼が思いも寄らない言葉を口にするとは知らずに…。



「あれだろ?身長が縮んじまって悔しいんだろっ?」



「どうだっ」とでも言わんばかりに満足げな真弘。
珠紀が呆れて何もいえなかったのは言うまでもない。
事実を知られずに済んだだけましだと思えばいいのか。
その後、彼は珠紀の肩をぽんぽんと優しく叩き、
「俺様がお前の分まで伸びてきてやるからな」と意味不明な言葉と笑顔を残し、去っていった…。

そして、その後保健室に真弘の怒号が響いたとか響かないとか…。


完 初出:2007.04.18


あとがき

健康診断をしたときに思いついたネタです。
初緋色SSのため口調の書き方が慣れていませんで、間違っているやもしれません。
珠紀の嘘にまでは気付く真弘先輩ですが、その本当の理由にまでは気付かないという…。
いや、気付かれたら気づかれたで珠紀は嫌なわけなのですが(笑)
コメディになってしまいましたが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。