甘い嫉妬 前編 (真弘×珠紀)
※この作品は緋色FD本編真弘ルートのネタバレが有ります。
ネタバレを好まない方は申し訳ありませんが、読むのをお控えください。
昼休み、守護者の皆とご飯を食べようと屋上に向かった。
屋上へと続く階段を上り、ギィィとドアを開けるとそこは一面降り積もった雪で覆われていた。
滅多に私たち以外には人が来ないからだろう、まだ足跡すら一つも付いていない銀色の世界。
季節は冬。
さすがに積雪していては座れないし、晴れているとはいえ風は冷たい。
こうして、ランチタイムの場所替えが求められた。
「じゃーんけーーんぽーーん!!」
いきなりの真弘先輩のその掛け声につられて、驚きながらも手を出す慎司君と私。
訳が分からないままじゃんけんに参加させられた結果…、慎司君の負け。
「えっと……なにかあるんですか?」
不思議そうな顔をしながら、負けてしまった慎司君が口を開く。
状況が掴みきれていない私と慎司君に、祐一先輩と真弘先輩が説明してくれる。
要するに、こういうことらしい。
雨の日や雪の日はどうしても屋上が使えなくなってしまう。
そこで、そういうときは拓磨の教室を借りてそこで昼食を食べることにしていたらしい。
(あ…、目の前の小さな先輩が強引に拓磨に命令している姿が想像できる…)
拓磨もしぶしぶ承諾してしまったのだろう。
しかし、承諾してしまったことをすぐに拓磨は後悔することになる。
真弘先輩の騒ぎ様…
思えば屋上で過ごしている時だってこの先輩はよく騒ぐのだ。
ここ数ヶ月一緒に昼休みを過ごしてきたのだから、もう慣れてしまったのか、あまりうるさいと感じなくなっている自分。
でも、自分の教室で騒がれるとなると話は別だ。
その光景を想像しただけで恐ろしい…。
真弘先輩のことだから周りのことなんて気にしないだろうし、クラスメイトに申し訳なくて自分ばかりが気疲れしてしまいそうだ。
(まぁ、気持ちはわかるよ、拓磨…)
そして、実際にそんな大変な思いをした拓磨が必死に提案した結果、誰の教室で食べるのかをじゃんけんで決めることになったらしい。
その説明と、真弘先輩と拓磨のやり取りを聞きながら隣にいる慎司君の顔が徐々に青ざめていく。
(そっか…、今日は慎司君の番なんだ…)
「慎司君、がんばってね」
そういう言葉しか掛けられなかった私。
はたして今日の昼休みはどうなってしまうのだろう…。
すると、この不安な空気を作り上げた張本人がそんなことも知らず、嬉々として言う。
「よーし!今日は慎司の教室かー!いろいろと楽しみだなー!」
そして、一目散に慎司君の教室へと駆けて行く。
「ま、待ってくださいよ!
お願いだから静かにしてくださいね!?」
慌てて慎司君も先輩の後を追う。
そんな彼の後ろ姿を見て、ぽそっと呟く。
「……慎司君、かわいそうだなぁ」
慎司君のことを助けてあげたいけれど、騒ぐ真弘先輩を静かにさせるなんてどう頑張っても出来そうにない…。
いたたまれない気持ちになるから、今日は慎司君の教室にお邪魔するのはやめて自分の教室で食べようかと考えていたとき、屋上に残っていた祐一先輩に声を掛けられた。
「早く行った方がいい。真弘のあのはしゃぎよう……1年の女子を見るのが目的のようだ」
まさか、そんなことは…と思って、驚きの声を上げると、拓磨まで祐一先輩の意見に同意した。
そんなことはないだろうと疑っていた珠紀だったが、自分よりも先輩と付き合いの長い二人にそう言われてしまうと途端に確信に変わる。
「ちょ、ちょっと真弘先輩!待って……待ちなさいってば!!」
そう叫んで、もう姿が見えない真弘先輩と慎司君を追いかけた。
そんな珠紀の後ろ姿を見て、やれやれと拓磨が苦笑した。
「祐一先輩は昼ご飯どうします?慎司の教室行くんすか?」
「そうだな…、借りておきたい本があったからひとまず図書室に行こうかと思う…」
「そうすか。じゃあ、俺もお供しますよ」
そうして、二人は慎司の教室ではなく図書室へと向かった。
雪が降り積もった屋上には先程までいた五人の足跡だけが残っていた…
頑張って走って向かったものの、やはり二人には追い付けなかった。
慎司君の教室へと続く廊下まで行くと、ざわざわとした人だかりが出来ていた。
一年生の女の子たちが固まりを作ってこそこそと話をしている。
「鴉取先輩だー、こんなに間近で見るの初めてー」
「見れないし〜、ちょっとどいて、どいて!!」
キャーキャーと騒いでいる女の子たち。
(や、やっぱり有名なんだ…)
一年生の教室に三年生が来ること自体驚くことだと思うけれど、やって来たのは真弘先輩。
守護者の皆といるときに感じていた他の女の子の視線…。
慎司君はかわいいし、祐一先輩はきれいだし、皆有名で人気があるんだろうなとは薄々思っていた。
けれど、それをこんな形で目の当たりにすることになるなんて!
こっそりと一年生に紛れて慎司君の教室を覗いてみると、定番の昼食、焼きそばパンをもふもふと食べている真弘先輩が見えた。
(静かにしてるな…)
騒いでいるのかと思っていたのに、意外にも静かに席に座っている。
そういえば…、焼きそばパンを食べているときは静かなんだっけ…と思い出して呆れつつ、先輩の隣の席に座っている慎司君の方へと視線を向ける。
彼もまた静かにお手製のお弁当を広げていた。
その表情は曇っていた。
隣にいる先輩が焼きそばパンを食べ終えて、いつ騒ぎ出すのかとびくびくしているみたいだった…。
そして、慎司君のクラスメイトの女の子たちはというと、それぞれ昼食を食べたり、話をしたりしながらも、二人に注目しているのが見て取れた。
なんとなくさっきからもやもやした気持ちが溜まっていっているような気がする。
これ以上真弘先輩を見る女の子の視線を見ていたくなかった。
二人を追いかけてきたにも関わらず、教室の中に入る勇気も出なかった。
はぁ…と重いため息を漏らし、自分の教室へと戻ろうと慎司君の教室に背を向けた。
そんなとき、背中に声が掛かる。
「あ!珠紀!!お前やっと来たのか?ここ、空いてんぞ!!」
いきなり大きな声を掛けられて、びくっと驚き振り返ると、食べかけの焼きそばパン片手に目の前の席を笑顔で指差している先輩がいた。
先輩が自分に声を掛けた瞬間、廊下に固まっていた子たちの視線が一斉に向けられる。
誰?とでも言いたそうに向けられる視線が突き刺さるかのようだ。
慎司君と目が合うと、申し訳なさそうに苦笑する。
(いっそのこと…、気付いてくれなくて良かったのに)
その場に立ち止まったままの珠紀に向かって、笑顔で手を振ってくる彼。
「きゃー、鴉取先輩笑ってるよ〜!!」
「手ぇ振ってるよ〜!」
そんな彼を見て周りにいる子たちがこそこそと騒ぎ出す。
耐えられなかった。
無意識に力を込めて握り締めた右手がズキズキしてくる。
手を振るのを止め、不思議そうにこちらを見ているだろう彼の顔をまともに見ることが出来なかった。
そして、何も言わずにまた背を向けてその場から走り去った…。
逃げることしか出来なかった。
「なっ、オイ、珠紀!!」
先輩の叫ぶ声が聞こえた気がした。
振り返る余裕も、立ち止まる勇気も無かった。
ただただこんなところにいたくなかった…
そして始まる追いかけっこ。
続 初出:2007.06.09
あとがき
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でのキリリクを頂いて書いた作品です。
「語られなかったFD本編真弘ルートでのとある昼休みの話」
久しぶりにFDをプレイして、そういえば「女の子目当て」という部分に私も疑問を持ったなぁと思い出しました。
と…、熱が入り過ぎてまたまた長文に(あわあわ)次の後編で完結です!
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。
そして、素敵なリクをくださった方、本当にありがとうございます〜!