一人ぼっちの誕生日(真弘×珠紀)

りんりんと家の黒電話から音が流れ始める。
その電話に出て応対した美鶴がパタパタと珠紀の部屋に来て、彼女を呼んだ。
そして、その電話を受け取りに部屋から出る。
受話器からは聞き慣れたあの人の声が聞こえてきた。



「お!珠紀か?今、話してて大丈夫か?」

真弘先輩。
無事に紅陵学院を今年の三月に卒業した後、某国に「また行きてぇ!」と夢を語っていた彼。
結局、現在は季封村から出て、都会の大学へと通っている。

「大丈夫ですけど…、何か用事ですか?」

ゴールデン・ウィークに実家に戻ってきた先輩に会って以来、直接会ってはいない。
たまにこうして電話を掛けてくれて、そこで話をするくらい。
長電話をしてしまうと、美鶴ちゃんやおばあちゃんに迷惑かけそうで申し訳ない。
―― そう、珠紀と真弘は現在、遠距離恋愛中だった。
(滅多に会えないもん…)
そんな自分の状況を少し切なく思いながら、受話器を握ったままその場に座る。
美鶴がそんな珠紀の側を通りかかって、身体が痛くならないようにと彼女へと座布団を渡す。
笑顔でこっそりと美鶴ちゃんにお礼を告げると、微笑んで居間へと入っていく。
そうこうしていると、少し間を置いてから、言いにくそうに彼からの返事が返ってくる。
「いや、あの…さ。もうそろそろお前、誕生日だろ?
何か欲しいものはないかなと思ってよ…」


「誕生日…」
そういえば、来週で18回目の誕生日がやって来る。
「それでよ、悪りいんだけどどうしても当日はそっちに帰れそうもなくてだな…。
それで、先に郵送しとこうかと思ってな」
自分の誕生日のことなど、教えていないはずなのにどうして彼が知っているのか。
お祝いしてもらえるという事実を嬉しく思いつつも、当日は会えないらしい。
一瞬の間にさまざまな気持ちが珠紀の中を駆け巡る。
そもそも来週自分の誕生日がやってくること自体、先輩に今言われるまですっかり忘れていた。
知っていてもらえただけでも嬉しいのに、当日一人ぼっちの誕生日になるのかと思うと、切ない気持ちになってくる。
ただでさえ今となっては滅多に会えないのだから…。
それと同時に会えない期間分、わがままになっていっているような自分が疎ましくも思う。
うーん…、と心の中でいろいろと考えていると、受話器の向こうでその沈黙に耐え切れなくなった真弘が口を開く。

「オイコラ、聞いてんのか?」

「あぁ、はい!聞いてます!」
「それならいいんだが…、で?今何か欲しいものとかあるのか?」
いろいろと考えてはみたんだが、さっぱり分からなくて直接お前に聞くことにした、と付け加えられた言葉たち。
先輩らしいといえば先輩らしい。
「そうですねー、特にこれといって今欲しいものは…」
自分の部屋の私物を思い出しながら、呟く。
「んなっ!折角この俺様がお前にプレゼントしてやるって言ってるのにだなー。
自分で言うのも何だが、こういう機会は滅多に無いぞ!
本当に欲しいもの、ないのか?」
「欲しいもの」を何か言わなければ、納得してくれそうも無い彼の雰囲気。
しばらく考えた結果、こほんと一つ咳払いをして、会話を繋ぐ。
「……その欲しいものって、どんなものでもいいんですか?」
「あぁ…、構わないが…」
改まった質問に少々戸惑いを感じる真弘。


「それでしたら…、先輩の私物をください」


「は?」
思った通り、驚いた反応が返ってきた。
自分でも変なことを言っているのは十分よく分かっている。
でも、滅多に会えない状況だからこそ、寂しい気持ちは消えてはくれないわけで。
自分の側にずっといてほしい、だなんてわがままは言えないし、言いたくない。
それでしばらく考えた結果があれだった。
「…だめですか?」
「あ、いや、だめというわけではないが…。
お前があまりに俺の予想を超えることを言い出すからな…」

「そうですか、よかった。
じゃあ、誕生日当日楽しみに待ってますから。おやすみなさい、真弘先輩」
そう言って、ゆっくりと受話器を顔から離し、電話を切ろうとしていたとき、「ちょっ、オイ待て、珠紀!」と、慌てた声が聞こえてきた。
再び受話器を顔にあてて、話を続ける。
「はい?何ですか?」
「あのよ…、お前、いつも何時頃寝てる?」
「は?いきなり何の質問ですか?」
「いや、その…、悪りい、なんでもない。じゃあな!」

矢継ぎ早にそれだけ言って、切られてしまった電話。
ツー、ツー、ツーと規則的に機械音だけが聞こえてくる。
その受話器を置いたあと、何の質問だったのだろうと疑問に思いながら、廊下を歩き部屋へと戻る。
その道すがら、誕生日当日に一体何が届くのかとわくわくした気持ちでいっぱいだった。
来週が待ち遠しくてたまらない。
一人ぼっちの誕生日になるはずなのに、一人ぼっちではない気もする。
「それに…、美鶴ちゃんもアリアも、皆もいるしね…」
フフッと微笑んで、自室の襖を開け、寝る準備を始める。


それから一週間後のこと。
珠紀の誕生日当日の夜遅く、誰かが息を切らしてやってくるのである。
彼女のあの発言により、彼女に会わずにはいられなくなった、彼が…。


完 初出:2007.06.30


あとがき

キャラソンでの真弘先輩の歌声を聞いて、居ても立ってもいられず書いた珠紀誕生日SSです。
いろいろと捏造ある上に、当日の話ではありませんが(あわわ)

高校を卒業した後の真弘先輩、初書きでした。
たとえ遠距離恋愛になっていたとしても、この二人ならやっていけると思います(ぐっ!)

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。