大事な関係(真弘×珠紀←拓磨)

※この作品は特殊なCPになっておりますので、苦手な方はどうかお戻りください。

まだぼーっとしている頭で拓磨は通学路を歩いていた。
「拓磨!おはよっ!」
後ろから掛かる声とともに、肩をとんとんと優しくたたかれる。
その人物とは、珠紀だった…。



「ん…」
振り返ると笑顔を浮かべる彼女。
その彼女の横には、拓磨に笑顔を向ける一人の人物。
「おーっす!拓磨っ!」
真弘だった。
「今日も相変わらず朝から元気すね、真弘先輩…」
「そう言うお前は相変わらず眠そうだな!」
はははっと笑いながら、何故かばしばしとたたいてくる。
悪意のないことだとは分かっていても、朝からこの先輩に会うとは…、多少イライラしてしまう。
こっちはまだ眠いというのに、このテンション。
自分よりも年上なのだから、もっとしっかりして欲しいと思ってしまう。
まぁ、しっかりした真弘先輩なんて想像も付かないのだが…。
そんなことを半ば呆れながら考えていると、珠紀の声が掛かる。

「拓磨、今日の昼休み屋上来るよね?」

屋上。
昼休みはそこで守護者のメンバーや珠紀と昼食を取るのが通例になっている。
拓磨にとってもそれは通例のこと、だった…。
最近は、何かと理由を付けて足を遠のけてしまっていた。
別に何かが嫌だからといったことではない。
ただなんとなくおかしな気持ちになってしまうのだ。
自分でもよく分からないこの気持ち。
そんなことを黙ったまま考えていると、再度珠紀の声が掛かる。
「拓磨ってば!もう…、そんなに眠たいの?屋上…来てね?」
少し笑いながら、そして、優しくそう言うと、前を歩く慎司の姿を見付けて駆けていく。
そして、その後は珠紀、慎司、真弘先輩と学校へと向かった。


午前中の授業が終わるチャイムが鳴る。
それは、同時に昼休みの始まりを告げるものだった。
ふと、自分の席から珠紀の席の方に視線を向ける。
だが、彼女の姿は教室のどこにもなかった。
不思議に思いながら、さて、どうしたものかと考える拓磨の頭に朝の彼女の言葉が浮かぶ。
「屋上…来てね?」
一つ小さくため息をついてから、心を決めて席を立った。

屋上へと続く階段を上り、ドアを開ける。
心地良い風が吹き込み、さぁぁっと自分を通り過ぎていく。
「あ!拓磨先輩、いらっしゃったんですね」
そこには慎司ただ一人だけの姿があった。
そして、数分後。
屋上のドアが開いて、新たな訪問者がやって来る。
「まだ二人だけなのか?」
祐一先輩だった。
屋上に来いと呼びつけた張本人の姿はまだない…。
ひとまず先に昼食を食べようということになり、三人がそれぞれ思い思いに昼食を広げる。
それからしばらくして、屋上へと続く階段を上る足音と、騒ぎ声が聞こえてきた。
「だから、言ったじゃないですかっ!」
「なっ、そう言ったって仕方ないだろっ!」
お互い喧嘩腰でやって来る誰か。
その誰かが誰なのかなんて、容易に分かる。
困ったような表情の慎司と目が合い、お互い苦笑した。
そして、ドアがギィと音を立てて開く。
まだ何かを言い合いながら、屋上へとやって来たのはやはり珠紀と真弘先輩。
屋上に入ってくるなり、珠紀は慎司に駆け寄る。
「慎司君っ!ちょっと聞いてよ〜、真弘先輩ったらね!」
「おいコラ、俺のせいじゃないだろっ!」
「ちょっ、ちょっと、お二人とも落ち着いてくださいっ!!」
慎司を巻き込みながら、まだ何かを揉めている二人。
その状況を傍目で眺めていると、ふと珠紀と目が合う。

「あっ、拓磨!」

驚いた表情をして出した声が屋上に響く。
あれだけ騒いでいたというのに、急に静かになる。
そして、静かな屋上に心地良い風が吹く。
しばしの沈黙。
自分が屋上にいることを目に留めてから急にそわそわとし出す二人。
「昼食食べないんすか?昼休み終わりますよ」
そう、何かが変だと思いながらも二人に話しかける。


「おい拓磨っ!今日、何日か言えっ!!」


脈略もなく、しかも、何故か命令形でいきなり変なことを言い出す先輩。
「は?何なんすか…、それ?」
訳の分からないことにただただ戸惑うしかない拓磨。
「拓磨、今日は何か大事な日ではなかったか?」
あの騒ぎの中、自分の横で静かにいなりずしを食べ続けていたもう一人の先輩が口を開く。
「大事な日?今日って何日……、あ」
思い当たった日にち。
今日は、5月11日――――、自分の誕生日だ。
「ふっ、やっぱり忘れてやがったか…。俺様の言った通りだろ?」
どこか得意気に言う先輩。
「だからね、皆で拓磨のお祝いをしようって話になって、こっそり計画してたの」
笑顔で珠紀が言う。
「そりゃ、どうも…」
どことなく照れくさい気持ちになって、素っ気無い態度を取ってしまう。
「それで、例の物は買って来れたのか?」
和んだ雰囲気の中、祐一先輩が呟く。

「っ!!」

その言葉に明らかに動揺し始める二人。
「い、いやぁ…、それがさ…」
「拓磨…、ごめんね?」
そう言うと、珠紀は白い紙の包みを拓磨に手渡す。
見たことがある包み。
いや、もしかしなくても、これは…、自分がよく見るあれではないのだろうか。
かさりと音を立てながら、包みを開くと、そこにはほかほかのタイヤキがたくさん入っていた。
かなりの数だ。
「どうしたんすか?これ?」
驚きつつ、その包みからタイヤキを一つ取り出しながらそう呟く。
「え!」
慎司の驚いた声が屋上に響く。
「どっ、どうしてタイヤキなんですか!」
「真弘、一体何があったんだ?」
いつもの口調より少し強めの声で祐一先輩が真弘先輩に向かって言う。
そう話しかけられた当の本人は、自分の頭に手をやり、ガシガシと動かしながら、
「こ、これはだな…」
そして、始まる弁解。

まとめるとこういうことだそうだ。
珠紀、慎司、真弘先輩、祐一先輩はありがたいことに自分の誕生日を祝ってくれる計画を立てた。怪しまれないようにと、当日の買い出し係りと、何も知らないようにいつも通りに振舞う係りと二手に分かれた。そして、買い出し係りに任命された二人は昼休みになると、急いで学校を抜け出し商店街まで向かったらしい。
まぁ、真弘先輩の力を使えばあっという間に着いたことだろう。
そして、四人がそれぞれ出し合ったお金を使って、当初の目的ではケーキを購入するはずだったが、そこで、先輩の視界に入ったのは拓磨がよく行くタイヤキ屋。
ケーキを買ってお金が余ったらついでに買おうという珠紀の言い分を軽く無視し、先にそのお店に入ったのが間違いだった…。
タイヤキには味は一種類しかないと思い込んでいた真弘の目の前には種類豊富なタイヤキが。
そこで、拓磨が一番好きな種類は何味なのかでまた言い争い、結局、買えるだけ買ってきてしまったという…

「やはりお前に任せたのが間違いだったか…」
祐一先輩がいつになく厳しい口調になる。
「す、すまん…、拓磨、祐一、慎司、珠紀」
珍しく真弘先輩が素直に謝る。
そんな滅多に、いや、今までに全く見たことがないその姿。
思わず許してやるかという気持ちになる。
それに、本当はそんなに怒ってもいない。
怒る理由がないからだ。
そして、袋から取り出していたタイヤキを真弘先輩へと差し出す。
「俺一人じゃこんなに食べられないっすよ…」
少しへこんだ表情をしていた目の前の先輩が拓磨の手からタイヤキを受け取ると、その瞬間いつも通りの笑顔になる。


そして、残りの昼休み。
タイヤキを皆で囲んでわいわいと騒ぐ。
いつも同じ種類ばかりをついつい買ってしまっていたので、自分でもその種類の多さに驚いた。
そして、楽しそうに笑う彼女の姿が瞳に映る。
「ちょっと真弘先輩っ!!
食べ終わってから次のタイヤキ食べてくださいよっ!!」
「んあ?いろいろと食べてみたいんだよ、仕方ないだろっ!
あ、そうだ!俺、別の味食べてみるから、これ半分お前が食え」
そう、また俺様な言い分を述べたかと思うと、タイヤキを半分に割って、ほいっと珠紀に渡す。
「な、何ですか、それ!」
反論しながらも、少しその頬が赤く染まる彼女。
その姿を見てしまった途端、またおかしな気持ちが生まれる。
心のどこかで、その感情を指す言葉を見付けてしまったように思ったが、すぐにかき消した。
この二人は自分にとってとても大事な友人と先輩。
この大事な関係を壊したくなんてなかった。

昼休みが終わるチャイムが鳴る。
屋上から階段を下りて、それぞれの教室へと向かっていたとき、珠紀が拓磨に言う。
「そうだ!拓磨、放課後、私の家に絶対来てよね!
美鶴ちゃんが豪勢な食卓を用意してくれるんだって。
ちょっと昼休みは失敗しちゃったかもしれないけど、ちゃんとお祝いしたいし。ね?」
その言葉に、他の守護者もそれぞれ拓磨に笑顔を向ける。

笑顔を絶やさない彼女。
そんな彼女を見ているとこっちまで暖かい気持ちになる。
ずっと笑っていて欲しいと思う。
あの戦いを乗り越えたからこそ、余計にそう思ってしまうのかもしれない。
そして、そんな彼女の笑顔をこれから先守っていけるのは自分ではなく、やはりあの先輩なんだろうなと思った。
そう思う心には何も寂しい気持ちなどなく、あのおかしな気持ちも生まれなかった。
たださんさんと照らす今日の空と同じように、とても清々しい気持ちだった…


完 初出:2007.08.09


あとがき

特殊な作品のため、三ヶ月ほど手元で温めていましたが、翡翠の店舗特典「タイヤキの味」で拓磨が好きなタイヤキの味が判明してしまうのではないかと思い、発売日までにUPさせることにしました…。
しかもよくよく考えますと、拓磨の誕生日に真弘先輩と祐一先輩が学校にいるはずがありませんよね…。
もう何も言えませんが、その、いろいろすみません。
拓磨の誕生日に関するSSを書く際に思い切って書き上げた作品です。

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。