[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
白い何かと攻防戦 第二戦 後編(真弘×珠紀)
今朝は見事なまでに失敗した。
それもこれもあの白い奴のせいだ…。
「どうするかな…」
昼休みに引き続き、午後の授業中、くるくるとペンを手の中で回しながら、真弘は考え事をしていた。
第二の作戦。
帰宅する珠紀を靴箱で待ち伏せ。
今日一日待ち伏せしかしていない気がしないわけでもないが、今朝とは違ってここは学校だ。
学校の敷地内ではオサキ狐も変化できるはずがないと踏んでのことだった。
それに珠紀の家に押しかけようなら美鶴に嫌味を言われるのは目に見えている。
つまり、実質珠紀に声が掛けられるのは登下校の時間しかないのである。
そして靴箱で待つこと、数十分。珠紀がやって来た。
今朝とは違って白い何かの姿はなく、一人でこちらに向かってきていた。
「オイ、珠紀!」
背後に隠した右手をぐっと固く握り締めて、彼女に呼びかける。
「真弘先輩…、どうしたんですか?」
自分の存在に気付き、少し怪訝そうにしながら尋ねてくる彼女。
「あのよ…、ちょっと話が…。と、その前にオサキ狐は一緒か?」
また邪魔されるわけにはいかない。
今朝の二の舞は御免だ。
奴の存在を確かめておくに越したことは無い。
「おーちゃんでしたら、影の中にいますけど?多分寝ていると思いますよ。
それで、話って何ですか?」
白い奴の存在に脅かされることはなさそうで、その現状にひとまず一息つく。
「そうか…」
学校の中でいきなり変化するわけにもいかないだろうし、奴が起きてくる前に今のうちに謝ってしまおうと、謝罪の言葉を述べようとしたときだった。
「真弘先輩はおーちゃんのこと嫌いなんですか?」
「は?」
目の前には真剣な眼差しで真弘を見つめる珠紀の姿があった。
そんな二人の側を通り過ぎて下校していく生徒達。
昇降口にはガヤガヤと話し声や足音が響いていた。
そんな中、発せられた珠紀の言葉。
「ど、どういう意味だ?それ」
彼女の意図するところが分からず、聞き返す。
「私、あれから考えたんですけど、先輩って理由もなく人を泣かせはしないですよね…。
だったら、やっぱりおーちゃんのことが嫌いだから、あのとき泣かせ…」
「んなわけないだろ!!それに、あのときはだなー。
ついいつも通りに大声出しちまって、あいつを怖がらせたのは認めるが、嫌いだから怒鳴ったんじゃねぇよ!」
「今みたいに、ですか?」
少し呆れ気味に真弘を見つめる珠紀。
それもそのはず。
二人で会話をするだけならまだしも、真弘が大声を出してしまったせいで、昇降口にいる生徒の注目の的になってしまっている。
何があったのだろうとざわつく下校途中の生徒たち。
拓磨や慎司や祐一といった知った顔がその場に無いだけましだろうか。
「わ…、悪りい…」
その事態にそこで初めて気付き、さすがの先輩も恥ずかしくなったのか、頭に手をやりガシガシと動かしていた。
その頬が少し赤く染まっているように見える。
「…フフッ…」
そんな姿に思わず、笑ってしまう。
怒っている間は絶対に笑わないようにしようと意地になっていたっていうのに。
(まったく、もう、この人には負けるな…)
そして、その後数日振りに共に下校した二人。
田舎道を帰る途中、ふと珠紀の足元からオサキ狐が出てきた。
光に包まれたかと思うと、あの白い子供がちょこんと立っていた。
変化の術だろう。
「たまよりひめー!」
「あ、おーちゃん。起きたの?」
ひしっと珠紀に抱き付く白い何か。
珠紀の横を歩く俺の姿を一瞥したかと思うと、涙目になって震える声を上げた。
「たまよりひめー、こわいよー!」
そう言ったかと思うと、珠紀の後ろに隠れるオサキ狐。
(こ、こいつっっっ!!!)
もしかして、わざとやってるんじゃないかという疑念が頭の片隅にぽかんと浮かぶほどだ。
「おーちゃん、大丈夫だよ。真弘先輩はよく大声出すけど、怖くないよ」
よしよしと頭をなでながら、優しく諭すようにしてその抱きついている子供に話す。
聞き捨てならない部分があったようにも思いはしたが、折角彼女が普通に話してくれるようになったのだ。
自分から喧嘩のネタを作るわけにもいかないだろうとその部分は聞き流してやることにした。
さすがに今朝の氷のように冷たい彼女は当分見たくないと思った。
そんなことを考えていると、俺の方に向き直って笑顔で話しかけてくる彼女。
また今朝のことを思い出して、その笑顔にほっとする。
「じゃあ、仲直りの握手をしましょう!!ね?真弘先輩?」
別に断る理由もない。
「あ、あぁ…」
ほら、とその子供に向かって手を差し出した。
その瞬間、見てはいけないものを見てしまった気がした…。
珠紀の後ろに隠れたままのオサキ狐が心底嫌そうな顔をしていたのだ。
先程微かに生まれた疑念が、一気に確信へと変わる。
(こ、こいつ…、わざとだったのか!!!)
今までの何もかもが一瞬にして真弘の頭の中に蘇った。
どこからどこまでがこいつの策略だったのかは分からない。
あの雪玉をぶつけてきたところからか、それ以前からなのか…。
でも、珠紀が「ね?」と言いながら、奴の方へと振り向いた途端に無邪気な笑顔を浮かべるこいつにぞっとしたのは間違いない。
しかも、面倒なことに珠紀は目の前の愛くるしい子供の本質には気付いていないようだ…。
そしてそのまま、珠紀に勧められるまま、仲直りの握手を交わした二人。
はてさて、これからも真弘とオサキ狐の戦いは続いていく。
何も知らない珠紀を巻き込みながら…。
戦いの行方はまだ誰も知らない。
真弘 対 オサキ狐 第二戦。
完 初出:2007.08.24
あとがき
これにて第二戦完結です!
珠紀を愛する美鶴ちゃんとおーちゃんが手を組んだらどうなるんでしょうね…。
ふと、書いている最中にそんなことを思いましたが、最強だと思います(笑)
この続きはあるような、ないような感じです。
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。