白い何かと攻防戦 第二戦 前編(真弘×珠紀)
「一体どうしたものか…」
あれ以来、珠紀と仲直りが出来ないまま、時が過ぎている。
それというのも、あのオサキ狐が一人で勘違いして雪玉を俺様に投げてきた挙句、勝手に大泣きしたせいだ。
その光景を目撃し、俺があのオサキ狐を泣かせたのだと誤解して怒ったままの珠紀。
雪が舞い散る中、珠紀の家へと続く階段の下であいつが下りてくるのを待っていた…。
息が白い。
はぁ…、と一つため息を付く度に吐き出された息が瞬時に白く変わる。
珠紀が怒ってしまったあの日以来、登下校が別々になった。
誤解を解こうと奔走してみたが、敢え無く失敗の日々。
どうしたら許してくれるのだろうか…。
いや、そもそも許してもらうべき理由もないのだ。
別に俺に非があるわけではない。
全てはあの、オサキ狐が…。
何やらあの日、珠紀に連れられて家の中に入っていくときに、俺を見て笑ったような気がしてならないのだが…、あれは俺の気のせいだろう。
(とにかく、今日こそ珠紀の誤解を解かなければ!)
こうして、登校する珠紀を待ち伏せすることにしたのである。
何分ここに立っていただろうか…。
手袋などしているはずもなく、外気にさらされた指先が次第に冷えてじんじんしてくる。
手の感覚を麻痺させないために、こすり合わせて温めているとザクザクと雪を踏みしめる足音が聞こえてくる。
その音に気付き、顔を上げて階段を見ると珠紀が下りてきていた。
待ち伏せ成功。
自分の思惑通りに事が運んだことに思わずニヤリと笑みを浮かべた後、階段を一歩一歩下りてくる彼女に近付こうとしたとき…、彼女の横に何かがいることに気付く。
白い何か。
忘れるはずも無い。
あのふさふさとした耳としっぽ。
奴だ…。奴がいる!
「たまよりひめー、きょうもがっこー?」
ぴょこぴょこと階段を下りながら、無邪気な笑顔で珠紀を見上げている。
「うん、今日も学校だよ」
二人?、いや、一人と一匹は仲良く手を繋いで階段を下りてきた。
そんな世間話を繰り広げながら、立ち止まったままの真弘の横を通り過ぎていく彼女たち。
あまりの予想外の衝撃に固まっていた真弘がようやく我を取り戻す。
「……っ、おい、珠紀!ちょっと、話したいことが…」
その真弘の声に振り返り、珠紀が口を開く。
「真弘先輩、おはようございます。何か用ですか?」
いつもと違って、その声は冷たく、表情には笑顔の欠片もなかった。
それほどまでに目の前の彼女は怒っているのだろう。
「いや、だから、その…、こ、この間は…」
珠紀の冷たさに気圧されながらも、なんとか目的を果たそうと詰まりながらも言葉を紡いでいく。
「…この間は、わる…」
「ちーこーくー」
「え?おーちゃん?ちょっと、待って!!」
精一杯の謝罪を邪魔された挙句、オサキ狐は珠紀を引っ張って学校へと田舎道を走って行った。
戸惑った表情を浮かべたまま、奴に連れて行かれた彼女。
一瞬の出来事で追いかけるという簡単なことさえ思い付かないまま、その場に只一人取り残された真弘。
「嘘だろっ!!!」
そして、彼の虚しい叫び声だけがその場一体に響き渡った…。
己に舞い落ちてくる雪までもがひどく冷たく感じられた。
その後、力なくがっくりと肩を落としながらとぼとぼと歩いて登校したため、案の定遅刻した真弘。
校門に立っていた先生に「改善したと思っていたのに、また遅刻常習犯に逆戻りか?鴉取」と言われつつ、頭をこつんと小突かれたが、それにも反応することはなかった。
絶対言い返してくると思っていた先生がそんな真弘の態度を不審に思ったのは言うまでも無い。
そして、昼休み。
いつも通り焼きそばパン片手に屋上へと向かう。
だがしかし、屋上は降り積もった雪で覆われていて、そこで昼食を食べられそうにはない。
集まった屋上メンバーで、雪の日の決まり事であるじゃんけんをしようとしたところ、どうにも珠紀の姿が見当たらない。
まぁ、珠紀が屋上に来ないのはここ数日連続していたのだが…。
「オイ、拓磨。珠紀はどうした?」
そして、連日の如く拓磨に尋ねる。
「ん?あいつスか。今日も忙しいとかで…、皆によろしくと言ってましたよ」
そして、毎度の如くそう同じように答える後輩。
「そうか…」
「真弘…、珠紀と何かあったのか?」
無意識に暗い声を出してしまっていたのだろう。
祐一が心配そうに尋ねてくる。
「いや、何もねぇよ。
それより!お前ら知ってたか?あの…、珠紀のオサキ狐、子供の姿になるんだぜ!」
話を変えようと持ち出したあの、狐の話。
「あぁ、それは変化の術だな…」
へぇー、と初耳そうに驚く拓磨と慎司をよそに、祐一がぽつりと呟く。
「変化?あいつ、そんなことが出来たのか…」
「いや、俺が教えた」
(お、お前かよっ!!!!)
力強くそう叫ぼうとしたが、どうにか心の中だけに止めることが出来た。
あのオサキ狐が子供の姿になれなかったら、こんなことには…と思わないでもない。
だが、祐一を責めるのは筋違いであるし、オサキ狐が変化出来るようになったのも力が付いた証拠なのだろう。
そう考えて、もう変化の件はこれ以上考えないことにした。
まずは今の状況をどう打開するかが問題だろう。
そして、昼食の場所を決めるじゃんけんをして、一行は慎司の教室へ…。
負けが決定した瞬間、何かを諦めたような様子の慎司だったが、今日に限っては違っていた。
真弘が静かだったのである。
そう、心ここにあらずと言える状態だった。
もふもふと焼きそばパンを食べながら、続いての作戦を必死に練っていた…。
続 初出:2007.08.16
あとがき
初戦の初出日から時間が経っていますが、第二戦を考えてみました。
長さの関係で前編と後編で分けています。
おーちゃんのさりげないブラック振りに自己満足です(笑)
夏に冬のお話を書くのも涼しくなっていいですね♪
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。