欲しいもの(真弘×珠紀)
「先輩、何か欲しいものってありますか?」
そう、彼女が屈託の無いいつもの笑顔で俺に聞く。
どうしてそんなことを聞くのか、彼女の意図が分からなかった。
季節は秋。
夏の暑さと比べて、心地良い季節。
それでも、時間が経つにつれて風が冷たくなってくる。
次の季節の到来が近くなっているからなのだろう。
少し肌寒い風が吹き、辺りがオレンジ色に染まりだす。
夕焼けが村全体を優しく、そして、暖かく包んでいた。
その夕焼けの中、学校からの帰り道を歩く二人。
舗装されているはずもなく、まさにのどかな田舎道。
その道の上には二人の影が長くのびていた。
民家もなく、目の前には田んぼと森が広がっている。
穏やかな風景と共に、珠紀の声が響く。
「先輩、何か欲しいものってありますか?」
唐突な質問だった。
「欲しいもの?そうだな…、焼きそばパンだな。やっぱり。」
とりあえず、質問通りに「欲しいもの」を答える真弘。
その返答を聞いて、珠紀はがっくりと肩を落とす。
「本当に焼きそばパン好きなんですね…。
今日も昼ごはんに食べたじゃないですか。
まだ欲しいんですか?」
半分呆れ気味で、くすくすと笑う彼女。
その質問の意図を疑問に思っていた気持ちはどこへやら、真弘の意識は焼きそばパンへと向かう。
「焼きそばパンの偉大さがまだ分かってないみたいだな、お前は。
だから、焼きそばパンってのはな…」
自然と声が大きくなってしまう。
「はいはい、その話、もう何十回も聞いてますよっ!」
真弘が愛する焼きそばパンについて声を大にしながら熱く語り出そうとするのを強引に遮り、並んでいた位置から二、三歩先を歩く珠紀。
その姿を後ろから見ながら、ぼそっと呟く。
「俺の欲しいものなんて、もう手に入ってるしな…」
無意識に出た心の声。
自分で発したというのに、自分で自分が恥ずかしくなり、彼が赤面したのは言うまでもない。
その言葉は肌寒い風に攫われ、彼の火照った色は夕焼けに紛れた。
完 初出:2007.04.26
あとがき
「甘め」な話に挑戦です!とはいえ、糖度は低めなのですが、
この一場面を想像して少しでもドキリとして頂ければ私としてはガッツポーズものです(笑)
無意識に出た本音。いつかは珠紀に届けば良いなという思いを込めて…。
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。