下り坂のち上り坂 中編1 (真弘×珠紀)
「おやおや?なーにを気にしているのかな?」
ふと顔を上げると目の前には清乃ちゃんがいた。
今はお昼休み。
珠紀は自分の教室で昼食を取っていた。
隣の席の清乃ちゃんと机を近づけてのランチタイム。
お互いの机の上には、美鶴ちゃんが手渡してくれたお手製のお弁当、そして、購買で買ってきたパンが広がっていた。
ニヤリと彼女お得意の表情をして、こちらを見てくる。
「べ、別に何も気にしてないよ!」
変にからかわれないように急いで、そして少し強めに言う。
その言葉に驚いた表情を見せると、よよよと肩を落とす彼女。
「私との昼食じゃ物足りないのね…、心の友よ…」
清乃ちゃんは悲しそうな目をして、少し大げさにそう言う。
(は、始まったっ!)
そう、清乃ちゃん。
ロゴスとの戦いも無事に終えて、私と真弘先輩、そしてみんなの活躍で鬼斬丸を破壊した今、どうしてこの子がまだここにいるのだろう…。
一見、普通の高校生として生活している彼女。
しかし、本当は典薬寮から、ここ、季封村に派遣された国家公務員だったなんて。
しかも、本当は私より年上だったなんて!
全く気付かなかった自分。
彼女の演技力の賜物だったのか、それとも、精神年齢のおかげだったのかはさておき、とにかく、私と清乃ちゃんは相変わらずの友情を続けていた。
そう、ロゴスとの戦いの後、一旦は報告のために典薬寮へと戻っていた彼女だったが、後日調査のためとかでまたここに帰ってきていたのだった。
それに、何を思ったのか、紅陵学院第二学年の生徒として未だ在籍していて、彼女曰く「愉快で楽しい学生生活」を満喫しているらしい。
まぁ、私も清乃ちゃんのことは嫌いじゃないし、彼女の秘密とやらは心の中に留めておくつもりだ。
そう、嫌いじゃないんだよ?
本当は良い子だってこと、ちゃんと知ってるんだよ?
でも、……でもね。
ちらりと横を見ると、まだ彼女は何かを話し続けている。
「あーあ、久々に一緒のお昼ご飯だっていうのに…。
私の愛する心の友は、私のことなんてどうだっていいのよね…」
私をからかうつもりなのか、ただふざけているだけなのか、それとも本音なのか、彼女は度々こんな調子だ。
(この性格はなんとかしてほしいよ…、清乃ちゃん)
「だーかーら!」
一人で呟いていた清乃ちゃんが急にこっちの方を向いたかと思うと、人差し指をびしっと立てて、真面目な顔をして言う。
「いくら日直だからって…、昼休みは私に任せてくれてもいいよ、って言ったじゃない…」
先程までの声の調子と打って変わって、少し沈んだ声になる。
その上、急に真面目な顔なんてするから、驚く珠紀。
「え?」
(清乃ちゃん…)
しばしの沈黙。
珠紀は目の前で心配そうに見つめる彼女に優しく微笑んだ。
(何だかんだ言っても、やっぱり彼女は…)
「それに、朝も早く来て日直の仕事したんだからさー。
今日まだ会ってないんでしょ?せ・ん・ぱ・い、と!」
(ん?)
彼女が自分のことを心配してくれた気持ちを嬉しく思う時間は短く、そして、また、彼女が大人しくなっている時間も短く儚かった…。
日直。
主に隣同士の席ごとに二人ずつで担当し、交代していくクラスの係り。
今日は私と清乃ちゃんが担当していた。
朝早くに登校して、教室を軽く掃除することから始まり…、
号令
授業時間後の黒板消し
担任との連絡係
日誌書き
…と、次々と挙げられる仕事。
これらの仕事を今日は彼女と二人でこなさなければいけない。
だから、そのことをあの人に伝えて今日は一人で登校した。
何か大きな失敗をしない限り、連続で日直になることはない。
そう、今日一日を乗り越えたら当分の間は係りが回ってくることは無いのだ。
確かに清乃ちゃんは言ってくれた。
「昼休みは別にしなくちゃいけない仕事はないし、任せてくれてもいいんだよ。
この私にどーんと任せて、君は屋上に行っておいで☆
ほーら、さぁさぁ!!」
その申し出を断ったのも私だ。
昼休みにすべき仕事がないことは事実だけれど、緊急に日直に呼び出しがかからないとも限らない。
校内放送で呼び出されるのなら、屋上にいても聞こえるから対応出来る。
でも、クラスに先生が来て、とか放送を使わない呼び出しだったら、言葉通りに彼女に全てを任せることになってしまう。
もちろん彼女はきちんと仕事をこなすし、頼れる友人だ。
でも、だからといって、そうしたくなかった。
自分の仕事を投げ出して屋上に行ったとしても、誰も喜ばないことは分かりきっているし、自分の仕事なのだからちゃんと彼女と二人で全うしたかったのだ。
そして、彼女とのランチタイム。
またいつも通りのテンションで珠紀をからかい始めた彼女と適当に話をしながら、昼休みは終わっていった…。
窓際の席に座っているため、見上げると空が見える。
空には、ぽつんと黒くて大きな雲が一つ浮かんでいた…
昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
「今日は午後から下り坂になるでしょう」という天気予報が出された季封村。
その予報通り、午前中の空から一転、空一面に暗雲が広がっていた。
今にも降りだしそうな空だった。
授業中、板書をノートに書き写していた手を少し休め、ふと外を見る珠紀。
(うわぁ、空一面真っ黒…)
そんな空を見上げながら、私は美鶴ちゃんに感謝していた。
そして、今朝の出来事に思いを馳せる。
日直の関係でいつもより早く家を出なければいけなくて、ばたばたと朝食を済ませ、朝の準備を終えると、一目散に玄関へと走った。
ガラガラ、と引き戸を引いて、今にも「じゃあ、行って来ます!」と家の中に向けて声を発しようかとしていたときだった。
「珠紀様っ!お待ちください!!」
パタパタと廊下の奥から美鶴ちゃんがやって来る。
急いでやってきてくれたからだろう。
玄関先まで着くと、はぁはぁと少し切らしていた息を整え、珠紀に傘を差し出して言う。
「今日は午後から下り坂で雨が降るそうですよ。お持ちくださいませ」
「え?そうなんだ。全然知らなかったよ、ありがとう、美鶴ちゃん!」
そう言って、美鶴から傘を受け取る珠紀。
「では、いってらっしゃいませ」
いつも通り優しい笑顔で送り出してくれる美鶴ちゃんに、「うん、行って来ます!」と自分も笑顔で返し、家をあとにした。
(あのとき、美鶴ちゃんが傘を渡してくれなかったら、大変だっただろうなぁ…)
そう今朝のことを振り返った後、休めていた手を再び動かして、授業へと気持ちを戻す。
グラウンドには、ポツ、ポツと小さな水跡が付き始めているところだった…
続 初出:2007.05.10
あとがき
初の連載もので、まだあわあわしております。
多少長くなりますが、情熱はどの編も同じですので、続きもお付き合いしてくだされば幸いです。
前回、男の子ばっかりでしたので、今回は女の子ばっかりです(笑)
そして、予告通りにやっと珠紀の出番と、清乃ちゃんと美鶴ちゃんを頑張って登場させてみました。
清乃ちゃんを今回初めて書いたにもかかわらず、この子を書くのとっても楽しかったです!
すらすらと彼女のセリフが浮かぶ、浮かぶ!
話全体が長くなってしまったのはこの子のせいかもしれません(;´▽`lllA``
それでは読んでくださった方、本当にありがとうございました。