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下り坂のち上り坂 中編2 (真弘×珠紀)

季封村の上空には一面に広がる雨雲。
今日一日の授業が終わる頃には、降り出した雨が強くなり、そこかしこに水溜りを作っていた。
今、この教室に残っている生徒は二人だけ。
珠紀と清乃だけだった。



日直の最後の仕事、日誌書き。
それを担任に提出すれば、日直の仕事は全て終わる。
清乃ちゃんと一緒に、また時に分担した仕事は特に何もミスをすることなく終えたから、これで当分は日直にならなくて済むだろう。

「うわー、雨降ってるねぇ…」

珠紀がそれを記入している間、清乃は席を立ち、教室の窓から外を眺めていた。
校門を出て行く生徒の大半はそれぞれ色とりどりの傘を差していた。
しかし、ちらほらと傘を差していない生徒の姿が見える。
ある者はカバンや制服の上着を傘の代わりに、またある者はもうあきらめたのか、何もしないで駆けていく。

「うん、清乃ちゃんは傘持ってきた?」
日誌の日直のコメント欄を埋めながら、清乃に尋ねる。
「もっちろーんっ!!当ったり前じゃん!
…ん?なになに?もしかして、忘れちゃったのかなー?」
相変わらずのハイテンション。
雨が降っているからといって、どことなく寂しく、暗い気持ちにはこの子は絶対にならなそうだ。
変わらない彼女の姿に、フフっと微笑んでしまう。
「ううん、私もちゃんと持って来てるよ。
……よしっ!書き終えたっ!」
そう言うと、持っていたペンを机の上に置き、日誌に書き忘れがないか確認する。
その日誌を上から覗き込む清乃ちゃん。
午前と午後で日誌を書く仕事を分担したため、筆跡が二種類あるのが妙に可笑しかった。
「うん、完璧!じゃあ、これは私が先生に提出しておくよ!」
目の前に立っている清乃ちゃんが日誌を渡すようにと笑顔で手を差し出す。
「え?いいよ、いいよ!
清乃ちゃんの方が何だかんだ言っていっぱい仕事してるんだから!ね?」
そう、彼女は、黒板消しのときに、「この先生板書し過ぎだよ~」とか、「ん!この人の筆跡、強いっ!消しても跡残っちゃうじゃん!」とかいろいろと文句を言いながらも、しっかりと仕事をしてくれたのだ。
典薬寮の方でも何かしら仕事を抱えている身で放課後も忙しいはずだから、これ以上学校に時間を割ける身じゃないんじゃないのかなと珠紀は思った。

「えーーっ、なーに言ってるのかな?この子ったら。
そ・れ・にっ!誰かさんが待っているかもしれないんだよ?
ほーら、結局今日まだ会ってないんでしょ?
最後くらい私に頼ってくれてもいいんじゃないのかなぁ…」

次第に小さくなっていく彼女の声。少し悲しそうな表情にも見える。
(気にかけてくれていたんだ…)
昼休みのときに思ったあの感情がまた芽生えてくる。
本当に清乃ちゃんは良い子なんだよね。
「分かった、ありがとう!」
そう、満面の笑みを彼女に向けて日誌を手渡した。
「うん、分かればよろしいっ!」
珠紀から日誌を受け取ると、自分のカバンを持ち、教室から出て行こうとする清乃。
教室の入り口付近でふと足を止め、振り返ると帰り支度をしていた珠紀に一言声を掛ける。

「それじゃ、後はお若いお二人に任せるとしますか!仲良くねん♪」

「っ!」
「こらっ」と言おうとして帰り支度をしていた手を止めて顔を上げた珠紀だったが、もうそこには清乃の姿はなかった。
ただ一人教室に残った珠紀は、清乃ちゃんのことを思いフフっと笑う。
そして、自分のカバンを持ち、教室をあとにした…。



「!?真弘先輩っ!!」
昇降口に期待半分走って向かうと、靴箱に寄り掛かり立っている人の姿が見えた。
「…おう」
帰りは校門で待ち合わせることが多いが、外は雨だ。
だから、こうして濡れない場所で待っていてくれていたのだろう。
放課後が始まってからなるべく急いで日直の仕事をしたものの、やはりそれなりに時間がかかってしまったのも事実だ。
特にこれといって何もせずに、人を待っている時間は実際の時間よりも長く感じてしまう。
大分長く待たせてしまったに違いない。
珠紀の心に彼が待っていてくれたことを嬉しく思う気持ちと共に、それを申し訳なく思う気持ちが生まれた。
「長く待たせましたよね?ごめんなさい…」
ぽつりと声を掛ける。
「ん?いや、そんなに長くは待ってないぞ?
うん、別にいいから、気にするな…」
どことなくいつもよりも声の調子が低い気がする。
「何かあったんですか?」と声をかけようかとしたとき、彼の視線が自分の手元を見ていることに気付いた。
(ん?)
彼の視線を追いかけて、自分の手元を見る。
美鶴ちゃんが渡してくれた傘の柄を握っている以外は別におかしいところはない。
不思議に思いながら、また彼へと視線を戻したとき、彼が口を開いた。


「た、珠紀、悪りい…。そ、その、俺…」


言いにくそうに言葉を詰まらせる目の前の人。
ふと、珠紀は先程の清乃との会話を思い出す。
(もしかして…)
「傘忘れたんですか?」
先程清乃ちゃんからされたものと同じ質問を彼に尋ねる。
その言葉にびくっと驚く真弘。
なるほど…、予想は当たったらしい。

「っ!?わ、忘れたわけじゃ、ないぞっ!
俺様がそんなヘマするわけがないだろ!
今日は…その、あれだな…。そう!濡れたい気分だったんだ!!」

視線をいろいろな場所に動かしながら、話す彼。
明らかに動揺しているのがバレバレだ。
「…そ、そうですか。
じゃあ、真弘先輩の気持ちを尊重して…、今日は濡れて帰ってくださいね?」
限りなく嘘が下手な人だと半ば呆れながらも、彼の言い分に乗ってあげることにした。
どうして素直じゃないかな、この人は。
「え゛!」
予想外の珠紀の返しだったのか、驚いて黙る真弘。
そんな彼の動揺振りが面白くて、今度はどう返してくるのかを待つことにした。
なんともからかいがいのある人だ…。
少しの沈黙の後、真弘が頭を抱えて、その場に座り込む。
声を出さないように気を付けないと、可笑しくてくすくすと笑ってしまいそうだ。
すると、真弘がため息を一つついて、また立ち上がって珠紀の方を真っ直ぐと見る。

「珠紀、笑わずに聞け。
確かに…、傘は持ってきていない。悪い。
雨が降るだなんて昼休みに屋上であいつらに言われるまで全く知らなかった。
だから、放課後すぐに商店街まで傘を買いに走っていこうと思っていたんだが、思った以上に雨が強くてだな…。それでどうするかとここでもたもたしてたら、時間が過ぎちまってて…お前とすれ違いそうだったから、やめた。
とにかくっ!俺は濡れて帰るからお前は傘差せよ!
じゃっ、ほらっ、帰るぞ!」

先程までの大人しさはどこへやら、いつも通りの俺様な態度に戻っていく小さな先輩。
それにしても…、真弘先輩の一連の行動を想像すると、何故か可笑しくなってきて…、
「ぷっ、あははははっ!」
思わず我慢できず笑ってしまう珠紀。
「おいコラ、笑うなって言っただろっ!置いて帰ってやるからな!」
照れくささからか、目の前の先輩の頬が赤く染まる。
そして、言葉通りスタスタと珠紀を置いて自分の靴箱へと向かう。
「あははっ、ご、ごめんなさい…。
って、待ってくださいよ!真弘先輩!」
自分の靴を靴箱から出して、急いで彼の後ろ姿を追う。
本当にこの人の俺様な態度は困ったものだなと心の中だけで思いながらも、やはりその姿を追ってしまう自分がいた…


続 初出:2007.05.16


あとがき

ようやく真弘先輩と珠紀が出会いましたね…、長かった(笑)
次の後編で完結しますので、どうか最後までお付き合いくださればと思います!

そして、前回に引き続き、清乃ちゃん。やっぱり、この子好きですねぇ…。
いろいろと面白い子ではありますが、基本は良い子なんだと思います(笑)

それでは読んでくださった方、本当にありがとうございました。