君に感謝を (拓磨×珠紀)

ある晴れた休日。
鳥がバサバサと気持ちよさそうに空を飛び、その空にはさんさんと大地を照らす太陽があった。
そして、その太陽の光が照り注ぐ季封村の、とある田んぼ道を人が歩いていた。



「珠紀、悪いな。
折角の休日なのに付き合わせて…」

そう、言葉を発するのは拓磨。
そして、彼の隣を歩いているのは珠紀。
「ううん、いいよ。
それに一応玉依姫である私がいた方がよかったんでしょ?」
「ああ」
一言だけそう言うと、また二人は静かに歩いていく。
隣にいるこの人はどこかの小さな先輩みたいに静かでいるのが苦手な人ではないから、たまに私から話しかけない限り口を開かないこともある。
それに、クロスワードパズルに夢中になりすぎて、私の話を聞いていないことだってよくある。
でも、…やっぱりそれがこの人の良さなんじゃないかなと思ってしまう。
そして、今のこの静かな時間もとても穏やかなもので、珠紀にとって幸せな時間になっていた。

「思っていたよりもあまり時間かからなかったね。
今、お昼過ぎくらいかな?」

「だろうな…、太陽の位置からすると」
空を見上げて、そう答える彼。
拓磨につられて、空を見上げると思わず目が眩んでしまうほど、強い光で照らす太陽。
少しくらくらしたかと思うと、まぶたの裏に残像が焼け付く。


私と拓磨は、先程までカミの森にいた。
鬼斬丸を完全に封印し、その脅威がなくなって以来、平和な毎日が続いていた。
しかし、何故か最近カミサマが騒いでいるらしい。
そこで、守護者の中から誰かを派遣しようということになったのだ。
話し合いの結果…、というよりも、誰かさんの俺様な命令によって、拓磨が指名され、見回りに行くことになった。
その旨を彼から聞いて、玉依姫である珠紀も一緒に二人で様子を見に行くことになったのだ。

(今日の最高気温は何度まで上がるのだろう…)

そんなとりとめのない、どうでもいいことを考えてしまうほど暑さでぼうっとする頭。
しかし、一歩森に入ってしまえばそこが異空間であるかのように一転して涼しくなる。
木々に囲まれているおかげで、陽光が遮られているからなのか、また、カミサマの存在がそうさせているのか。
とにかく、森にある封印域と呼ばれていた場所を中心に見回っていく。
その途中、珠紀の「見る力」でカミサマを見かけては最近の森の様子について尋ねる。
その結果、最近カミサマがざわついていたことは事実だが、それが悪しきモノではなかったことが判明した。
そして、ようやくカミの森の調査を終えて、森をあとにしたのである。


休日だというのに、学校に通う時間とあまり変わらない時分から始めた調査。
今日一日はかかってしまうのだろうなとぼんやりと考えていた珠紀だったが、今はお昼過ぎくらいだという。
(本当に思ったよりも早く終わってしまったな…)
ふと隣を歩く彼の方をちらりと見る。
(このまま解散、ってことになったらどうしよう…)
珠紀は無意識に持参したカバンを持つ手に力を入れる。
うーん、と一人考え込んでいると…、

ゴツ。

「いたっ!ちょっ、なにっ?」
いつも通り拓磨の鉄拳が容赦なく珠紀の頭に振り下ろされる。
とはいえ、以前よりもその力加減が柔らかくなったのは気のせいではないだろう。
でも、自分の世界に入ってしまっていた分、どうしても条件反射で驚いてしまう。
「だから、これからどうすんだ?」
自分に話しかけているのにそれに気付かなかった故の鉄拳だったのだと気付く。
「これから?」
ふと、周りを見渡せば、お互いの家へと続く分かれ道に二人は立っていた。
「えっと…、た、拓磨はこれから何か用事あるの?」
「いや、特にない。
ただ俺の用事に付き合ってくれた分、何かあるならおまえの用事に付き合ってやっても…」
そのありがたい申し出を聞いて、珠紀の表情がぱぁっと明るくなる。
「ほんとにっ?」
「…ああ」
どうして目の前の彼女がこんなに嬉しそうな顔をするのかと不思議に思いながら、拓磨が返事をする。


それから、二人は木陰に来て座り込んだ。
木のおかげで先程までと比べて日差しが柔らかくなり、そよそよと涼しい風が吹く。
珠紀が抱えてきたカバンを開けながら言う。
「あ、あのね?
今ちょうどお昼過ぎだし、お腹減ってない?」
「ああ、そうだな。減ったかな…」
何も考えることなく、ただ珠紀に聞かれるまま返事をする。
「今日たまたま早起きしちゃってさ。
それで、たまたま時間があったから、作ってみたんだけど。
お弁当持ってきたんだよね?
ほらっ!今日、天気良いし、ピクニックみたいで楽しいじゃない?
私一人だけだと物足りないし、良かったら拓磨が付き合ってよ!」
恥ずかしさが先走ってしまって、早口になってしまったがなんとか言えた。
珠紀が決死の思いで言い終えてから数秒後、黙っていた拓磨が口を開く。

「おまえが?…手作り?」

「…うん」

「へぇ、珍しいこともあるもんだな。
おまえの料理を食べるのなんて初めてだな…」
少し照れくさそうにしながらも、了承してくれた彼。
たまにぶっきらぼうな物言いをすることもあるけど、やっぱり彼は優しい。

そして、持参したお弁当の蓋をパカッと開ける。
自分の料理が上手いだなんて、あの美鶴ちゃんの絶品料理を食べた後に思えるはずがないが、私だってこの村に来る前は何度か料理をした経験がある。
まぁ、この村に来てからはなかなか台所に入らせてもらえなかったから、その頃と料理の腕は何も変わらないのだが…。
とにかく、勢いで作ってみたものの、やっぱり自分の好きな人に手料理を振舞うだなんて、女の子だったら誰でもドキドキするはずだ。
「じゃ、いただきます」
拓磨が箸を手に取り、合掌する。
じっと見つめていたら、また怒るだろうから、自分もお弁当を食べながら、恐る恐る彼の反応を待つ。


「……うん、…うまい…」


少しこげてしまったのが気になっていた卵焼きを口に放り込んで食べてくれた後に一言。
「ほんとに!?」
思わず聞き返す声が大きくなってしまう。
そんな珠紀にばかだなぁとでも言いたそうに、でも、優しい目をして微笑んでくれる。


そんな昼下がりのピクニックの後の帰り道。
暗くなってきたから、と彼が珠紀を送ってくれていた途中。
「…なぁ、どうしてわざわざ早起きしてまで弁当作ってくれたんだ?」
そう尋ねてくる彼。
「今日、何日だったのか気付いていなかったの?
拓磨の誕生日でしょ?…………おめでとう、拓磨。
あなたがこの世に生まれてきてくれて本当に良かったと思ってる。
守護者とか玉依姫とか…、そういうの関係なく、ね?」
やっぱり気付いていなかった彼にお祝いの言葉を掛ける。


「ん、俺もおまえと同じように思ってるよ」


そう言うと、並んで歩いていた珠紀の手をそっと握る。
普段は滅多に手を繋ぐこともない二人。
そんな二人の間を爽やかな風が通っていく。
繋いだ手を通して上手く言葉に出来ない感謝の気持ちが彼女に伝わってくれればいいと彼は願った…


完 初出:2007.05.11


あとがき

初の拓珠で、あわあわしております。拓磨の誕生日お祝い作品です!

真珠を書き続けていたため、なかなか苦戦致しました…。
書いている途中で何故か小さい先輩が頭の中に浮かんでくる始末。
真弘先輩だったら、こういう場合どうするかな?とか脱線しながらもなんとか書き上げました!
拓磨をお好きな方にどう思われるだろうかととても不安な作品ではありますが、自分は満足しております。

それでは読んでくださった方、本当にありがとうございました。