目覚めと共に(祐一×珠紀)

とても悲しそうな目でこちらを誰かが見ている。
瞳には涙を浮かべている。
その涙を拭ってあげたいと彼女へと腕を伸ばす。

だが、少しも自分の身体は動かせなかった…。



昔の記憶が思い起こされる。
『ゲントウカ』としての己の記憶。
強大な力を持つ妖。
呪われたケモノとして、人々に恐れられ、忌み嫌われ、そして、追われ続けていた。
そんな折、自分を救ってくれた巫女――――、玉依姫。
人々から受けた仕打ちは決して忘れられることではなく、恨みや畏れとなって自分を苦しませ続けた。
どうしても、自分は人にはなれぬ。
ケモノであるということは変えようの無い真実だった。
だがしかし、彼女との出会いが自分の中の何かを変えた。
彼女の側にいたいと思った。
そして、彼女を全ての災厄から守り続けたかった。
他の人間のことなどどうでもいい。
ただ彼女さえ無事でいてくれればそれだけで幸せだった。
そのとき、たとえ自分が彼女の側にいなかったとしても…。
そして、そんな幸せな時間は儚かった。

暴れる鬼の力との戦い。
玉依姫を守るべく他の二つのカミと共に戦った。
ただのケモノだった己に与えられた役目。
彼女を守るためなら自分の命など散ってもいいと思った。
彼女と出会うまで、生きているはずなのに生きた心地などなかったも同然だったのだから…。
そして、今もなお転生し続け、守護者として永遠に彼女とこの土地を守り続けている。

ケモノである自分と玉依姫との関係には何の変化もないはずだった。
幼い頃から、自分が人と違うモノだということは理解していたし、何も期待などしたこともなかった。
そう、彼女が玉依姫としてこの地に舞い降り、彼女に心惹かれていくまでは…。


ふと夢から覚めた祐一の視界には自分を見下ろす人の姿があった。
「あ!祐一先輩、やっと起きたんですね?」
優しく微笑む彼女。
夢の中で見たもう一人の彼女の姿が目に浮かぶ。
あれは誰だったのだろうか…。
あの悲しい顔をした彼女。
瞳に涙を浮かべながらも、決してそれを流しはしなかった。
何かをこらえているような、そして、何かを言いたそうな表情だった。
あれも『ゲントウカ』の記憶なのだろうか。
そんなことをぼーっと考えながら、辺りを見渡すとそこは珠紀の家の居間だった。
どうやら彼女を待ちながら横になっていたら寝入ってしまったようだ。

「あと少ししたら、アリアとフィーアもここにやって来ますよ。
そうしたら、皆でお祝いしましょうね!!」
自分に掛けられる優しい声と笑顔。

まだ夢の世界から完全に抜け切っておらず、ぼーっとしている頭。
そんな思考回路の中、無意識に彼女の笑顔へと手を伸ばす祐一。
そして、彼女の頬に優しく触れる。
一瞬驚いて戸惑った表情を浮かべたが、彼女の頬が次第に赤く色付いていく…
そんな彼女の姿を見て、心から綺麗だと祐一は思った。


完 初出:2007.05.19


あとがき

初の祐珠で、あわあわしております。祐一先輩の誕生日お祝い作品です!
誕生日の雰囲気全くありませんけれどね(笑)

祐一先輩…、難しかったです…。
前作で祐一先輩ルートをプレイした際に、ケモノであるが故に珠紀を遠ざけてしまう姿が切なくてたまりませんでした。
これからは珠紀とアリア、フィーアと共に幸せに過ごしていって欲しいものです。

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。