白い何かと攻防戦 初戦(真弘×珠紀)
いつも通り珠紀の家へと続く長い階段の下で別れるところだった。
「じゃあな」と彼女に声をかけ、自分の家へと帰ろうときびすを返す。
そのとき、後ろから俺の背中に声が掛かった。
「先輩、少しだけ寄って行きませんか?」
その言葉に驚き、振り返る。
「大蛇さんから美味しいお茶の葉をこの前もらったんですよ。
でも、たくさん貰いすぎてしまって…。
飲みきれそうにないので、良かったら貰ってくれませんか?」
少し彼女の言葉にドキリとした自分にため息をつき、そのお茶の葉をもらうため、彼女と一緒に階段を上る。
今はもう降ってはいないものの、雪が積もっているから注意深く踏みしめる。
「それにしても、飲める分だけ貰えよな…」
「なっ、仕方が無いじゃないですか!
今日、学校に持っていって皆に渡そうと思ってたのに忘れちゃったんですから…」
「ま、いいけどよ…」
そして、珠紀と真弘は階段を上り終え、玄関へと向かう。
そのとき、ガラガラと玄関が開き、何かが飛び出てくる。
「たまよりひめー、おかえりー!」
ぴょんぴょんと珠紀の方へと駆け寄ってくる白い何か。
一見子どものようだが、ふさふさとした耳としっぽが人とは違う何かなのだと示している。
「なっ、なんだ、こいつは!?」
初めて見るその何かにただ驚くしかない真弘。
そんな真弘の横をその白い何かが通り過ぎる。
「あ!おーちゃん、ただいま〜」
横にいる彼女が笑顔で言い、その場にしゃがみこみ、飛びついてくるその何かを抱きとめる。
「あれ?そういえば、先輩この姿のおーちゃんに会うのって初めてでしたっけ?」
その白い何かに抱きつかれたまま、珠紀が真弘に尋ねる。
「ん?おーちゃん、って誰だ?」
「だから、オサキ狐のおーちゃんですよ!」
「あー、クリスタルガイかっ!!」
「違いますって!!!」
そんなやり取りをする最中でも、まだその白い何かは珠紀に抱きついていた。
そんな光景を見せ付けられると多少なりともイライラしてくるが、相手はあのオサキ狐だという。
(相手は子どもだぞ?
大人の俺様がそんなことで怒ってどうする…、落ち着け、俺)
なんとかくすぶる気持ちを抑える真弘。
ふと、珠紀が何かを思い出したかのように、言う。
「あ!早くしないと先輩が帰るの遅くなっちゃいますよね?
家の中からお茶の葉取って来ますから、その間おーちゃんの相手、お願いします!」
そう言って急いで家の中へと入っていく。
玄関先に取り残された白い何かと真弘。
その白い何かは珠紀が行ってしまったことでふてくされているのか、ぷくーっと頬を膨らませていた。
「おい、お前本当にオサキ狐か?」
そんなオサキ狐に声を掛けながら、そのふさふさした耳を掴む。
「っ、やーめーてー!」
そんなに強く掴んだわけでもないのにじたばたする白い何か。
ポカポカと真弘をたたいてくる。
(まるで俺がこいつをいじめているみてぇじゃねぇか…)
こんな場面を珠紀に見られて誤解でもされたら大変だ。
とりあえず、急いでオサキ狐の耳から手を離す。
またぷくーっと頬を膨らませて真弘の方をじーっと見てくる目の前の子ども。
「お前、珠紀に仕えるものなんだろ?今日は一緒じゃなかったのか?」
「たまよりひめー、まもるの!」
「いや、だから…」
どうにも自分の質問の意図が分かっていないらしい。
そう言ったきり、目の前でぴょんぴょんと飛び跳ね続けている。
まだ珠紀が戻ってくる気配はない。
どうしたものかと考えていると、何かがぼすっと肩に当たる。
振り返ると、あのオサキ狐がちょこんと座り、せっせと雪玉を作っていた。
自分の肩を見ると、白い雪でまみれていた。
(こ、こいつ…、まさか!)
嫌な予感がした矢先、ひゅんっと自分の横を何かが通り過ぎていく。
そして、ぼすっと何かが落ちた音が聞こえた。
振り返ってその正体を実際に見て確かめなくても分かる。
次々と先ほど作った雪玉をこっちに向かって投げてくる奴が目の前にいるのだから。
「なんなんだ、いきなり!」
無邪気な笑顔で雪玉をひょいひょいと投げてくる。
それをなんとか避けながら、とにかくその場から少し離れる真弘。
すると、飛んで来ていた雪玉が止み、静かになる。
木の陰からそーっと覗くと、またせっせと雪玉を作り上げている…。
「一体あいつ何がしたいんだ?雪合戦のつもりか?」
オサキ狐の真意を探ろうと試みるものの、全く何を考えているのか分からない。
意を決し、必死に雪玉を作っているその子どもに近付くことにした。
「おい、お前、一体何がしたいんだ?」
雪玉を作っていた手を休め、そう問いかける真弘をじーっと見上げてくる。
「たまよりひめー、まもるの!」
「だから、それはさっき聞いたって…」
ほとほと呆れて、どうしていいか分からず困る真弘を指差す。
「…………、てき?」
「え?」
小さな声で呟かれ、その言葉の意味を一瞬理解出来なかった。
再度聞き返そうとしたとき、顔に思い切り何かが当たる。
「いてっ!つめてぇ!」
いくら子どもが投げる雪玉とはいえ、至近距離から顔面にぶつけられたらかなり痛い。
『敵』
先程目の前のこいつが言った言葉の意味をようやく理解する。
「お、おまえなぁ…。
俺はあいつの敵じゃねぇよっ!!!」
少しずつ、そして、急激に降り積もったイライラが爆発して、目の前の子どもに向かって大声で叫ぶ。
我慢の限界だった。
すると、目の前のオサキ狐は一瞬にしてふにゅうと今にも泣き出しそうな表情になる。
(泣かれたらヤバイ!)
そう思ったのも束の間、すぐに大粒の涙がその瞳からぽろぽろとこぼれ出す。
「悪りい…」
勝手に何かを勘違いして雪玉を無邪気にもぶつけてきたのは、何者でもなく目の前のこいつだというのに、やはり泣かれたら弱い。
なんとかしようと、そうっと目の前でしくしくと泣く子どもへと手を伸ばす。
「先輩、遅くなってすみません!」
ガラガラと玄関が勢いよく開けられて、珠紀が出てくる。
なんとも最悪のタイミング…。
「え?」
珠紀の目の前にはしくしくと泣いているおーちゃんとそんな彼を見ている真弘先輩。
自分がいない間に何があったのかとその場に立ち止まり、考えを巡らす。
すると、泣きながらおーちゃんがぱたぱたと駆け寄ってくる。
「たまよりひめー、たすけてー!」
「おい、コラ、お前!」
誤解される言い方をするな、と駆けていくオサキ狐を止めようとしたが間に合わなかった。
しかっと珠紀に抱きつき、身体を震わせていた。
そんな奴を軽く抱きしめて、ぽんぽんと優しく背中をたたく珠紀と目が合う。
「真弘先輩…、おーちゃんを泣かせるなんて…」
そんな珠紀は悲しそうな表情をしつつも、しっかりと怒っているのが見て取れる。
「いや、だから、違うって!」
急いで誤解を解こうとしたが、やはり遅かった。
「先輩がこんなことする人だなんて…、見損ないました!
もうお茶の葉、あげませんから!」
それだけ言うと、その子どもを連れて家の中へと入っていく…。
呆然と立ち尽くす真弘。
そんな彼を振り返り、ニヤリと白い何かが笑った…。
真弘 対 オサキ狐 初戦
どちらに勝敗が挙がったのかは一目瞭然。
はたして次の戦いではどうなることやら…
完 初出:2007.06.03
あとがき
おーちゃんが…。ブラックになってしまった挙句、そんなに内容無いのに無駄に長い…(爆)
初のおーちゃん書きがこんな方向に進んでしまうとは思っていませんでした(目を逸らす)
ですが、自由奔放なおーちゃんを書くのはとても楽しかったです♪
当初は考えていなかった第二戦も時間は経ってしまいましたが考えてみました。
そちらもよかったらよろしくお願いします(ペコ)
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。