とんだ初対面(真弘×珠紀前提 珠洲+小太郎)
木が立ち並ぶあぜ道を歩いて行く珠洲と小太郎。
目指すは綿津見村の入口へ。
そこで出会うのは、はたして誰なのか…。
「あー、面倒だよなー、ったく…」
スタスタと村の入口まで向かいながら、不満を口に出す。
「そ、そんなこと言わないでよ。それに小太郎君しかいなかったんだし…」
おろおろとしながら、そんな彼をなんとか宥めようとする珠洲。
突如、行方不明だった従兄弟の真緒姉様が恐ろしい妖となって私の前に姿を現した。
玉依姫に代々受け継がれている神器である「勾玉」を奪いに襲ってくる真緒姉様と、彼女が率いる配下たち。
ここにいる小太郎君を含めた私側の守護者たちがそんな妖たちと対峙したのはいつのことか。
そこで見せ付けられた力の差。
一体これからどうしたらいいのだろう…。そして、どうしてあの優しくて大好きだった真緒姉様があんな姿になってしまったのか。
そのような不安と謎でいっぱいになった珠洲の元に村長の使いがやってきて言付けが伝えられる。
「季封村の玉依姫と名乗る方が我が村の入口まで到着されたそうです」
そこで、急きょ「季封村の玉依姫」という方をお迎えに行くことになった珠洲。
真緒姉様が現れて以来、「一人では出歩くな」ときつく晶に言われていたため、一応の警護ということで向かう途中発見した小太郎君に付いて来てくれるようにお願いした。
(その人に会ったら何か分かるのだろうか…)
そんなことを考えながら、入口へと続く一本道を歩いていると、道の反対側から誰かがやってきているのが見える。
遠目のため、顔まではっきりとは見えないが明らかにここの村人ではない雰囲気。
その人影は二人。
徐々にその二人との距離が縮まってくるにつれて、何やら騒ぎ声が聞こえてくる。
「だから、入口で待っときましょうって言ったじゃないですか!」
「あぁ〜?仕方ないだろっ。あんな何もないところで待っておけって言われてもだなー。
ひとまず、まだあの村の入口から真っ直ぐしか歩いて来ていないんだし、迎えの人間とやらと行き違いになることはないだろ。
分かれ道のところで待っておけばいいって!」
「はぁ…、真弘先輩じゃない人を連れて来ればよかった……」
心の中だけで呟くつもりが、思わずぽそりと言葉に出てしまう。
「なっ!……オイ、珠紀。もう一回言ってみろ…」
「あ!あそこに誰かいますよっ!ほら、先輩、あそこ!!」
そう、近付いてくる二人のうち片方の人が叫んで、珠洲たちを指差した後、パタパタと走ってこっちに向かってくる。そして、明るく言葉を発する。
「こんにちはー!あなたたち、ここの村の人だよね?
私たちは季封村からやってきた者で、ここの村の玉依姫様にお会いしたいんだけれども…。その方はどこにいらっしゃるのか教えていただけませんか?」
そう笑顔で尋ねて来る女の人。
「あ…」
(この人がもしかして……)
そう、ぼんやりと考えていた珠洲の横から、小太郎が口を開く。
「その、玉依姫ってのは今隣にいるこいつだけど?あんたは誰?」
「季封村」というキーワードで目の前にいる女の人が誰なのかだいたいの想像が付いた珠洲とは違い、少し警戒した様子でかつ高圧的な口調で珠紀に向かって尋ねる。
(そういえば、客人を迎えに行くとしか説明してなかった…)
きちんと説明していれば良かったと後悔する珠洲をよそに、笑顔を浮かべて答える女の人。
「あなたが玉依姫様なのね?こんなに早くお会いできるとは思わなかった…。
っと、自己紹介遅れてしまってすみません。私は……」
「オイ、珠紀」
その女の人の言葉を遮って、言葉を発する男の人。
荷物を重たそうに抱えたまま、ようやく女の人に追いついたようで横に並ぶと、どかっと大きな荷物を地面に下ろす。
それにしても、少し怒っているように見えるのが気になる。
「どうしたんですか?今、こちらの方々にご挨拶をと……」
「だーかーら、なんだ、こいつの態度は!」
「はい?」
そう、叫んだ後、びしっと小太郎君を指差して睨み付ける。
「オイ、こっちは仮にも客人なんだぞ!わざわざ何時間もかけて来てやったっていうのに、その態度はなんだっ!
こんな奴に謝ることも、ましてや挨拶なんてしてやることねぇ!」
大声で捲くし立てる。
やはり小太郎君の乱暴な言葉遣いと警戒した態度が気に障ったようだ。
きちんと説明しておけばこんなことには…、とあわあわするだけの私。
「……真弘先輩、言いたいことは分かりましたから、とにかく、少しだけでいいので黙っておいてください。ね?」
そう、「まひろ」というお名前らしい男の人に向かって笑顔で語りかける女の人。
笑顔を湛えてはいるものの、少し言葉の端々に力を込めて言葉を発している。
「ああ?だから、こいつの態度がっ」
怒りが収まりそうもない様子の男の人。
そんな彼に向かって、大きなため息を一つしてから、また話し出す。
「真弘先輩、話が全く進みません……。少しだけでいいので、静かに!
これは命令ですっ!」
終いには女の人までもが怒ってしまったようだ。
「命令」という言葉に、うっと怯んだかと思うと、途端に黙って静かになる男の人。
小さくため息を付いて、少し不満そうな表情をしている。
そして、そんな二人のやり取りを黙って見ていた小太郎君があははっと笑い出す。
「偉そうに怒ってたのに、女の言うことなんか聞いてやんの!あはははっ!!」
「なっ、なんだと…、こいつ……」
わなわなと握った拳が怒りで震えている。
その怒りのまま、小太郎君に向かって飛び掛ろうとしていた男の人に対して、ぽそりと女の人が呟く。
「真弘先輩?」
その言葉を聞くが早いか、出した拳を引っ込めて、その場に止まる。
そんな彼の態度を見て、うんうんと頷いた後、私の方を振り向いて笑顔を向ける。
「ご挨拶遅くなってしまってごめんなさい。
私、季封村の玉依姫としてこの村に派遣された春日珠紀と申します。
あなたが玉依姫様なんですよね?よろしくお願いしますね」
そして、手を差し出し握手を求める。
「あ…、高千穂珠洲です…。こちらこそよろしくお願いします」
ペコっと頭を下げた後で、その手を握り握手を交わす。
(こ、この人が季封村の玉依姫…)
自分よりも年上だろう女の人。それに、先程からの態度からもしっかりした玉依姫様なのだろう。そして腰まで伸びた真っ直ぐで綺麗な髪。
その容姿にも大人の女性であることが感じられて、ぽわーっとした気持ちになる。
「あぁ、それから、隣にいるのが私の守護者の一人で、今回同行してくれた鴉取真弘先輩。
真弘先輩!ここの珠依姫様にご挨拶!」
黙ったままの男の人に向かって、挨拶するようにと促す。
「あ?あぁ……、よろしくな」
先程まで怒っていた人とは思えないほど、明るくにこりと笑顔で挨拶をしてくれた。
(そんなに怖い人ではなさそう…)
目の前の客人に思わずほっとする。
そんな気持ちを打ち砕くような言葉が横から聞こえるとは思ってもいなかった。
「へぇー、こいつも玉依姫なんだ。お前と同じでたいしたことなさそうだな!」
珠洲の方を向き、珠紀さんと見比べながら、また、失礼な暴言を吐く小太郎君。
「オイ、コラ、お前…。今何て言った!!」
くすぶっていた気持ちに再び火を付けてしまったようで、男の人が怒りを顕わにする。
あわあわとする私の目の前で言い争いが過熱していく。
「え?聞こえなかったの?だから、たいしたことな…」
「だあぁぁぁぁぁぁぁ!!二度も繰り返してんじゃねぇ!!!
それに、お前明らかに俺様よりも年下だろっ。目上の者には敬語を使う。
そんな常識も知らないのかよ?これだからガキには困るよなー」
「ガキ」という部分を思いっきり力強く言って、小太郎君を馬鹿にした態度をとり、ふふんっとふんぞり返る。まさに勝った!と言わんばかりだった。
この喧嘩を仲裁してくれるのだろうか、とちらりと珠紀さんを見上げると、少し呆れた表情を浮かべていて、そんな彼女と目が合う。
小太郎君の暴言は気にもしていないようだった。まさに大人。
「えーっと…、珠洲ちゃん、って呼んでもいいかな?
とりあえず、ここで立ち止まって騒いでいても始まらないから、良ければお宅まで案内してもらってもいいかな?それから、いろいろと話を伺うことにしようかなと思うんだけど…」
「あ!はい!ご案内しますっ」
それから、珠紀さんと共にゆっくりと歩き出す。
振り返ると、そんな私と珠紀さんの後ろで、まだまだ騒いでいる小太郎君と鴉取さん。
「え……、何?あんた、俺よりも年上なわけ?
って、兄貴よりも年上だなんて、言わないよな?だって、俺と身長変わらないじゃん…」
そう言って、自分の身長と相手の身長を比べるように手をかざす。
それから、先程自分がされたのと同じように、ふふんっと馬鹿にした態度で笑う。
その小太郎君の態度に一瞬にして顔が引きつる男の人。
「お…、お前、もう許さねぇ…」
「へぇー、許さないって何?何してくれんの?
……俺、大人しく殴られてあげたりしませんよ?せ・ん・ぱ・い?」
ここぞとばかりに敬語を使う。ますます逆鱗に触れたようだ。
「てっめえぇぇぇぇぇ!!!!」
一触即発の空気が漂う。
どうにかして止めないといけないとは思うものの、方法が分からずただ戸惑う。
隣を一緒に歩いているはずの珠紀さんに声を掛けようとするが、そこに珠紀さんの姿はない。
あれ?と疑問に思ったのと同時に、ゴツ、と言う鈍い音が二回響く。
その鈍い音がした方を振り向くと、小太郎君と鴉取さんが頭を抱えてうずくまっていた。
「真弘先輩……、もういいかげんにしてくださいよ!!
それから、君も。珠洲ちゃんと一緒にいるってことは守護者なのかな?
だったら、たいしたことない私なんかにこんなに簡単に殴られるようじゃダメなんじゃないの?」
そして、ふふっと微笑む。笑っているはずなのに、その笑顔が怖い…。
(あれ…、やっぱり小太郎君の暴言、怒ってたんだ…)
珠紀さんの一発で、大人しくなる小太郎君と鴉取さん。
それから、再び歩き出して高千穂家へと向かった。
私と珠紀さんは談笑しながら、そして、後ろを歩く小太郎君と鴉取さんはとぼとぼと…。
そんな後ろの様子をこっそりと見て、とんだ初対面になったものだ、と心の中だけで珠紀は思った。
(後でこっそりと、私のために怒ってくれてありがとう、と伝えようかな…)
完 初出:2007.07.24
あとがき
翡翠の小太郎君ルートで真弘先輩が登場したらいいのにな、という期待からのSSです。
小太郎君と真弘先輩の身長は同じで、でも、お互いは自分の方が高いと思ってる説を捏造中です(笑)
しかも、翡翠フライングSSにも関わらず、相変わらずの真珠です。
珠洲×小太郎の雰囲気は全くありません。序盤も序盤ということで(苦笑)
ほぼ捏造と想像の世界なので、本編をプレイ後いろいろな違い等生まれること確実ですね。
それでは読んでくださった方、ありがとうございました。