あなたが幸せなら(晶×珠洲←陸)

※晶と陸のキャラソンのミニドラマの上での作品ですので、ネタバレにご注意ください。
あなたが笑えば僕も嬉しい、と子供のときから思っていた。
それは今も変わらない。
ただ年数が経つにつれ、少しずつ違う気持ちがその思いに挟まれていく。
あなたが幸せなら、俺は……。



自分の足元に広がる草むらでりんりんと鈴虫が鳴いている。
冷たい夜風が肌寒く、昼間との気温差を実感し、薄着のままで家を出てきたことを後悔する。
夜空に浮かぶ月を見上げてから、視線を自分の家へと向ける。
電球の明かりが閉められたカーテンの隙間から外へ漏れている姉の部屋。
(もう今頃は姉さんに会っている頃だろうか……)
自分でそうなるように仕向けておきながら、胸の辺りが少し傷む。

この状況は数十分前の出来事が始まりだった。
突如現れ自らを豊玉姫と名乗っていたのは行方不明だった真緒姉さん。
俺たちの記憶はなくなっていないようだが、明らかに以前と様子が違っていて姉さんを敵視していた。親しく慕っていた真緒姉さんの変わりように、計り知れないほどのショックを受けたことだろう。
それから、敵なのか味方なのかもまだよく分からない壬生兄弟という存在。
様々な問題が山積みになっていた。
そんな中、晶さんが我が家に来ることになり、共に夕食を終えて居間でテレビを見ていたとき、急に悲鳴が響いた。

「先に済ませてくるね」と言って風呂場へと向かうため居間を出て行く姉さんを見送ったのがつい先程。
何かあったとしか言いようの無い、その大きな悲鳴を聞いた俺と晶さんは一目散に風呂場へと駆けて行った。
電源が付いたままのテレビではクイズ番組の司会者が回答者たちへ正解を発表しようとしているところだった。
瞬時にして誰もいなくなった居間に向けて、番組が進行していく。
出題された問題の答が分からず、先程まで一体何が正解なんだろうと気になっていたはずなのに、もうそんなことどうでもいいことになって意識の外へと追いやってしまっていた。

そんな風に慌てて駆け付けた俺と晶さんだったが、姉さんがいる場所が風呂場だということがどういうことなのか失念していたため、却って姉さんを怒らせる結果を招くことになった。
偶然、姉さんに用事があって我が家を訪れたらしい亮司さんと話をしたものの、機会を改めることにするよ、とすぐに帰って行ってしまったためその場に残された二人。
姉さんにお湯をかけられて濡れてしまった服と頭だったが、幸い着替える必要があるほどズブ濡れにはなっていなかったため、タオルで拭いて、濡れた床も掃除した。
その間もお互いばつが悪いのか、気まずい空気が漂ってしまう。
「俺、姉さんに謝ってきます」
怒らせてしまったままにして、これから生活していくのかと思うと耐えられなくて、晶さんにそう言い残してあのときから篭ってしまった姉の部屋へと恐る恐る向かった。


「あの、姉さん、話があるんだけど……いいかな?」
そう、機嫌を窺うように部屋の中にいる姉に尋ねる。
数秒後、こちらに近付いてくる足音が聞こえてきて人の気配を感じ、緊張の余り俯いていた顔を上げるとゆっくりと襖が開く。
そこに現れたのは、見慣れた姉の姿。
大きな瞳でじっと自分のほうを見上げてくる彼女と目が合う。
その口元には笑みはなく、まだ何も言葉を発してはいないものの、怒っているのが肌で感じられた。
「さっきはごめん……」
姉さんの部屋に一歩も入ることなく、その場で謝った。
入っていいよ、とも、入るなともまだ言われていないのに、その怒っている空気に圧倒された。
滅多に怒ることのない姉が今目の前で怒っている。
自分にできることと言えば、謝ることしかなかった。
その気持ちが伝わったのか、最初は怒っていたのに徐々にその怒りも静まって最後には許してくれた。
恥ずかしさから突発的に怒ってしまった手前、どうしようという気持ちが姉さんにもあったらしい。
そうして、姉の部屋にお邪魔して少しの間話をした。


「今、晶はどうしてる?」
話をする中でぽつりと姉さんが自分に尋ねてきた言葉。
晶さんに対して怒っている気持ちは感じ取れず、怒りというよりも何か申し訳ないような口調で俺を通して晶さんがどうしているのかを探っているようだった。
そういえば、今日は朝からどこか機嫌がよくなかった姉。
壬生兄弟が何かしたのか、はたまた、豊玉姫が何か仕掛けてきたのだろうかとここに来る途中にその原因について考えたが、先程三人で夕食を取っているときにどこかよそよそしかった晶さんと姉さんの姿を思い出す。
その様子だけで二人の間に何かがあったんだと決め付けるには根拠が足りない気がするが、明らかに言えることは姉が晶さんのことを気にしているということだった。
姉さんが怒っている側だというのに、怒られた子供のように気にしている。
何か言おうかと思ったが、すぐに「いや、晶のことはいいの!変なこと聞いてごめんね、陸」と言われてしまって何も言えないまま、部屋を後にした。

「俺、外の様子を見てきますから。あとは任せましたよ」

姉さんの様子が変だった。
ただそれだけだったけれど、晶さんと話すことで姉さんが気にしていることが上手く行って笑ってくれるかもしれない。
だから、そう言って家を出てきて今に至る。
そのカーテンの向こう側で笑顔を浮かべる姉さんの姿を思い描く。
笑ってくれればそれだけで満足なんだ。
姉さんのためだったら何だってしてあげたいし、何でもすると心から思って生きてきた。
一行に消えてくれない、微かな痛み。
この胸の痛みには気付かなかったふりをした。
自分のこの想いは、姉さんを困らせてしまうかもしれないから。
あなたが幸せなら、それでいい……。


完 初出:2007.12.23


あとがき

あの晶と陸のキャラソンのミニドラマを聴いて激しく想像した結果の作品です。
陸の姿を追って聴いたところ、こういった切ない話が浮かんできまして……。
晶のことを気遣って、珠洲の部屋に行かせたことの裏にこんな想いがあったら切ないですよね。

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。