一日の終わりに(拓磨×珠紀)

暖かく晴れて、さわやかな風が吹く。
太陽が時間の経過とともに傾いていき、オレンジ色へと村を染めていく。
いつものように一日が過ぎていこうとしていた…



「た、拓磨!」

勇気を振り絞り、帰宅するため教室から出ようとしていた彼に声を掛ける。
「おまえか…、どうしたんだ?」
珠紀の声に足を止め、振り返る彼。
あのロゴスとの鬼斬丸を巡る戦いで共に戦い、珠紀にとって守護者以上に大切な存在になった彼。
だがしかし、どうしたことか…。
季封村が平和になったことは喜ぶべきなのだが、どうしても心の中がもやもやしてしまう。
そう、問題は、目の前にいる彼だ。
あれ以来、特に何もなく、その上、出会った頃と何も変わらないかのような態度で接してくる。
まぁ、その頃よりは優しい目をしてくれるから、最初はそれだけで満足だったのだが…やはり珠紀も女の子だ。
好きな人と一緒にいたいとか、いろいろと気にしないようにしていても考えてしまうのだ。
しかも、今日は珠紀にとって、いつもと違う日。
そこで、勇気を出して彼にあることを尋ねてみることにした。


「拓磨、今日一緒に帰ってもいい?」


今日一日のために何度も頭の中でシミュレーションを繰り返した。
自虐的かもしれないが、断られるパターンを何度も考えて、その場合は変な顔をしないで、笑顔でいられるように練習した。
(だって、拓磨に変に思われたくないもんね…)
そして、恐る恐る拓磨の返事を待つ。
彼の表情を見るのが怖くて、思わず下を向いてしまう。
自分のカバンを持つ手が微かに震えて、心臓がバクバクと脈打つ。
そして、少しの沈黙を破り、彼が口を開く。


「ああ、じゃあ、帰るか……」


(えっ!?)
彼には失礼だが、予想外の返事に驚いて勢いよくガバッと顔を上げる。
「ほんとにいいの?」
ぽつりと思わず心の声が出る。
今度はそんな彼女の言葉に一瞬驚いた表情をしたあと、拓磨が優しく微笑んでくれる。
そして、二人は一緒に教室をあとにした。


その帰り道。
夕焼けに染まった田んぼ道をゆっくりと歩いていく拓磨と珠紀。
「あのね…、拓磨」
「ん?」
「お、おめでとう!」
満面の笑みで拓磨にそう言う珠紀。
しかし、そう言われた本人は何やら不思議な顔をして、首を傾げる。
一体どうしたんだ?とでも言いたそうな顔をしてこちらをじっと見てくる。
(もしかして…)
「拓磨…、今日何の日か気付いてないの?」
少し呆れながら、隣を歩く彼に聞く。
「今日って何か大事な日だったか?」
全く心当たりなどないかのように、真剣な顔をして珠紀に聞き返す。
「はぁ…」
そんな彼に大きなため息をついてから、少し大きな声で言う。

「今日、拓磨の誕生日でしょ!!!」

あ…、と何かが思い当たったような目をする。
「そうか…、すっかり忘れてたな……。
もしかして、今日帰り誘ってくれたのはそれを言いたかったからか?」
直球にそんなことを聞かれて、無意識に顔が赤くなる。
そんな顔を見られたくなくて、少し隣の彼とは違う方向を見ながら、呟く。
「そ、そうだよ…」
ふっ、と微笑する声が聞こえたかと思うと、優しく珠紀の頭をポンと叩く。
「そうか…、ありがとな、珠紀」
そう言われて嬉しくて舞い上がってしまいそうな気持ちになるが、なんとか必死にその気持ちを抑える。
そして、あのとき勇気を出して良かったなと過去の自分に感謝する。
そんな彼女に追い討ちをかけるかのように、彼が一言。


「じゃあ…、明日からも一緒に帰るか?」


その素敵な申し出を彼女が断るはずがない。
ぶんぶんと大きく首を縦に振って笑顔で快諾する。
そして、拓磨の顔を見ると、またあの優しい笑顔があった。

幸せな気持ちに包まれた彼と彼女を、夕焼けが暖かく包み込んでいた…
いつもと同じようでいつもとは違う時間。


完 製作日:2007.05.12


あとがき

製作日を見れば拓磨の誕生日が過ぎていることが明らかでお恥ずかしいのですが、
素敵な企画に参加させて頂きたく、書き上げてしまいました。

珠紀視点で、甘々なお話でもありませんが、ほんわかとした気持ちになって頂ければ幸いです。

それでは読んでくださった方、ありがとうございました。
そして、こんな素敵な企画を開催してくださった企画者様、本当にありがとうございました!

守護者誕生祭〜若葉色付く五月〜
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